第十八話
最終試験会場より北に約80㎞程の位置にある鉱山。今は鉱脈も尽き、廃れてしまった為に人気はなく、ただ静寂だけが拡がっていた。
そんな、本来なら誰もいないはずのその鉱山の採掘広場に、4つの人影があった。
「ここが決闘場所ですか」
「ああ。ここは既に廃棄された鉱山だ。ここなら誰にも迷惑をかける事もねぇ」
そう。ここはアイシャとネテロ、2人の決闘の地として選ばれたのだ。選ばれた理由は極単純。試験会場から程よく近く、かつ周囲に人気がない。ここが最も条件に適していただけのことである。
極端な話、誰にも迷惑をかけないのであれば最終試験会場のホテルで戦っても良かったのだ。
だがこの2人――人類最高峰の念能力者が全力で戦うとなるとそれは無理というものだ。余波だけで周囲の建築物は損壊し、直撃した物は塵芥と化すやもしれない。ホテル全壊の可能性も大いにある。
物的被害だけで済めば御の字だろう。周囲に人がいれば念能力者でない限り……いや例え念能力者であっても生半可な実力では多大な被害を被るだろう。
故に見物人などおらず、ここにいるのは決闘の当事者である2人を除き、巻き込まれても対処する事が出来、決闘の立会人となったリィーナとビスケくらいであった。
「では、此度の決闘。風間流合気柔術本部長リィーナ=ロックベルトと――」
「心源流拳法師範ビスケット=クルーガーが見届けます」
その声が響くと同時に、相対していた2人の空気が一変する。
徐々に高まりつつある闘気に緊張感を顕わにするリィーナとビスケ。今まで幾度となく2人の決闘を見届けていたが、ここまでのプレッシャーを感じるのは初めてのことだった。
「思えば……長らく待たせましたね」
高まるプレッシャーの中。ふと、アイシャが呟く。
「あん? ……ああ、14年だ。お前が一度死んでから14年近く経った。全く、待たせやが――」
「違いますよ。待たせたのは……お前が全力を出す機会、だ」
「……なに?」
疑問に思うのはネテロ。当然だ。今までアイシャ……リュウショウとの闘いで手を抜いた事など一度たりともなかった。決闘で手を抜くなど武人にあるまじき事をするはずもなし、そもそも手を抜いて勝てる相手なら初めから好敵手などと認めてはいない。
だがアイシャはそうは思っていなかった。
勿論アイシャもネテロが手加減していたと思っている訳ではない。そうであるなら、ネテロが負けた時にあんなに悔しがってはいないだろう。
だが全力の全力を出したのかと言うと、そうではないだろう。何せネテロは己が能力の真骨頂である【百式観音】を使用すれば確実にリュウショウに勝利していたのだから。
それも余力を残して、だ。
【百式観音】を使っての対戦でもネテロは一度たりとも油断した事はない。一度でも発動を遅らせたら必殺の一撃を喰らっていたからだ。だが、【百式観音】を使用して勝った決闘ではネテロに余力があったのも事実だった。
それがアイシャは気に食わなかった。
余力を残していたネテロが、ではない。
最高の好敵手に余力を残す程度の実力しかない自身が、だ。
だが今は違う。確かに身体が変わり、技との整合性を取るのに苦労した。精神性に至ってはあの領域にたどり着けるかは分からない。今は以前とほぼ変わらぬ技術を取り戻したが、純粋な風間流のみの優劣ならアイシャとリュウショウではやはりリュウショウに僅かだが分があるだろう。他ならぬ己自身だ。それはよく分かっている。
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