最終話・(夢から脱出)したいだけです
六人いた勇者部は、二人はワニに食べられ、一人はベネットとの宿命の対決に臨んで、いまや三人だけとなっていた。
助けるためには、この夢から脱出しなければならない。
しばらく階段を登って行くと、一際大きな部屋へと到着した。
装飾や家具の一切ない作りで、光源は部屋のはるか奥に並ぶ大きな窓と高い天井の天窓のみ、照明機器も存在しなかった。扉や階段が他に見えないことから、どうやらここが最上階らしい。
その証拠に、部屋の真ん中には一人の女の子が立っていた。
「さぁ、来たわよ乃木園子さん?」
お姉ちゃんが言う。園子さんの表情は逆光になっていてよく見えないけど、微笑んでいるであろうことは分かった。
「みんなすごいね~。あの中を突破するなんて」
「いや、みんなただのカカシだったから銃乱射してるだけで何とかなったわ」
「あれ~」
少し驚いた様子だったけど、園子ちゃんは「まぁ、いいけどね~」と呑気なものだった。
「ところで、みんなはやっぱり夢から醒めたい?」
「当たり前よ。そのためにここまで来たんだから」
夏凜さんがフンスと言い放つ。当然の事である。でなければこんなところにわざわざ車で突っ込んで来たりしない。
「それは、みんなも同じ?」
園子ちゃんは私とお姉ちゃんにも問いかけの視線を送った。
「もちろん」
私ははっきりと答えた。
「どんなに楽しくても、それは夢でしかないもん。どんなに辛くても、私は現実でみんなと一緒にいたい」
「樹、立派になったわね……」
お姉ちゃんがそんな私をみてヨヨヨと涙を流した。何かに付けて大げさなんだからお姉ちゃんったら。
「それは、みんな変わらないんだね?」
私達はコクコク頷いた。それを見て、園子ちゃんは少し落胆したような、安心したような、複雑な微笑みを見せた。
「そっか。それじゃぁ……」
次の瞬間、園子ちゃんの身体が一瞬まばゆい光に包まれたそして、それがはじけると、そこには勇者の装束に身を包んだ園子ちゃんの姿があった。
「今日の私は、ちょっぴり悪役モードだよ~」
彼女は大きな槍を持っていて、それを両手交互、器用にくるくる回している。
「園子ちゃんも勇者だったんだ……」
よくよく考えてみれば、この夢を作りだしているのは園子ちゃんの精霊だというし、精霊がいるなら、彼女は勇者だということだ。
「驚いたわ。私達の他にも勇者がいたなんて……」
お姉ちゃんが呻く。
園子ちゃんはウォーミングアップがてらの槍回しをやめて、槍を右前半身に構えた。
「来なさい」
顔からは柔和な笑みが消え去り、全く読み取れない表情となった。そんな彼女の挑戦に、夏凜さんが受けて立つと前に出た。
「なるほど、勇者と戦えるのは勇者だけと言うわけね」
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