10.ザ・ブラック・パレード
「―――こちらは放送部です…。これより学園内は―――」
大停電を知らせるアナウンスが麻帆良学園全体に鳴り響く。
ほぼ同時刻に麻帆良を照らしていた光は消え去った。
いつも暖かな様子の街は冷えた闇黒に沈み、人々が小さな灯りで闇夜を照らすが、それはあまりに儚く今にも闇夜に呑まれてしまいそうだ。
学生たちは普段とは雰囲気の異なる街の様子に、内心怯えながらも軽口をたたき合いながら部屋に引き篭もり、いつもの麻帆良が戻ってくるのをじっと待った。
―――そしてそれは最も正しい選択だ。
これからは麻帆良は魔法使い同士の決闘の場と化す。
主役はまだ未熟な魔法使いにして未来の英雄の雛鳥。
それに対するは、稀代の魔法使いにして悪の吸血鬼。
街に住む他の魔法使いたちは息を潜めてその舞台を見守る。
これは未来の英雄に対する試練であると。
多少独善的ではあるが、それほど正義を目指す魔法使いたちにとって過去の英雄の名は目を晦ませるほどに眩し過ぎる。
決してその場を乱さぬよう、静かに速やかに麻帆良に侵入してくる無粋な輩を排除する。
そして独自の筋書きを描いて、その舞台を都合の良い様に改変しようとする者。
彼の暗躍はいまだ誰にも気づかれず着々と進行していた。
彼はこれからの起こるであろう出来事、そして未来を想像して喜悦の表情を漏らす。
ただ今は本屋店員である司書見習いだけが、これから起こるであろう出来事を知らなかった。
しかし諸君、何も心配する必要は無い。
―――彼はあと数刻もしない内に、それらの渦中に放り込まれる事になるのだから。
奇しくも彼女からの着信を合図に、魔法使い達の夜は始まった。
▼その人は何処にいった?
「ザ・ブラック・パレード」
「今から11時に麻帆良大橋にですか?」
『ああ、頼むよ。大事な話があるんだ…。』
いつもと比べ少し眠たげな声で千雨さんが電話を掛けてきた。それに若干の違和感を感じつつ了承する。
「別に構いませんが。…何か大丈夫ですか?眠そうですが。」
『…ああ、大丈夫だ。では11時に麻帆良大橋で。』
言うだけ言うとブツッと通話が切られる。
やはりいつもと雰囲気が違うな。
長谷川千雨という少女は口こそ悪いが、普段は礼儀正しい少女だ。
自分から仕事中に電話を掛けてきて、用件を言うだけ言って挨拶もなしに通話を切るなど、彼女らしくない。
11時に寮の門限を破ってまでしなければならない大事な用事なのか。
先日、あれほど軽挙妄動は慎む様に言ったばかりである。
にも拘らず、学園中が停電している日に?麻帆良の端っこの麻帆良大橋まで?夜中の23時に?
・・・めちゃくちゃ怪し過ぎる。
しかしあちらに行かないという選択肢はない。
あの電話の声は間違いなく千雨さんの声だった。
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