12話 一週間の始まりは……
4月14日(月)
一週間の内、学校や仕事が始まる日。
今日を憂鬱だと考える生徒はきっと少なくない。
そんな月曜日の授業ももう半分は終わった。
昼食を済ませた俺は、昨日拾ったお金を山岸さんへ返すためD組に来ている。本当は朝に返したかったが、今朝は陸上部の部長が手のひらを返したように勧誘の件を謝ってきたので、応対してたら時間がなくなってしまった。
どうも桐条先輩の方から厳重注意をされて、俺が同好会を作ろうとしている事を知ったらしいが……江戸川先生に顧問を頼むほど追い詰めてしまったって何かね?
強引な勧誘についても謝られたけれど、それより江戸川先生の方を申し訳無さそうに謝っていた。それはもう、この先が不安になるくらいに……
まあ、もう済んだ事だ。陸上部ももう勧誘に来ないと言ってくれたし、今は山岸さんに……どこだろう? 窓から教室内を覗いてみても、山岸さんの姿を見つけられない。
「すみません、ちょっといいですか?」
「え? 何の用?」
「A組の葉隠といいますが、山岸さんは居ますか?」
「山岸? 見てないなぁ……」
「あっ、山岸さん帰ってきたよ。山岸さん!」
扉から一番近くに居た男子生徒に聞いたら、横から別の女子生徒が教えてくれた。おかげで山岸さんが俺に気づいて小走りで近づいてくる。
「木村さんに、葉隠君? どうしたの?」
「この人が用事だって」
「こんにちは、山岸さん。突然来てごめん。昨日の落し物を見つけたから返しに来たんだ」
ブレザーの内胸ポケットから、口を密閉できるポリ袋へ二重に入れた封筒を取り出すと、山岸さんは目を見開いて俺と封筒を交互に見回す。
「見つかったの!?」
「商店街のドブに落ちてた。湿って汚れてるけど、幸い中身が判別できるから銀行に持っていけば新札と替えてもらえるよ」
そう伝えると山岸さんは笑顔でお礼を言ってくれたが、すぐにまた何かに困り始める。
「なにかお礼しないと……。こういう時は一割かな?」
「いらない」
速攻で断った。別に礼金目当てで探した訳じゃないし、教室でお金、それも高額のやり取りするのはどうも……何よりその汚れた封筒から一割出されても困るって。
「でも! 見つけてくれたって事は、あの後で捜しに戻ってくれたって事だから何かしたいんです!」
「……じゃあ今度缶ジュースを奢ってもらうって事で」
山岸さんはお礼をすると引かないので妥協案を出し、今日も勢いで納得させて気が変わらないうちにD組を出る。
あまり高い物を女の子に奢らせるのも悪いし、変な気づかいで手料理を貰うのは避けたい。ほぼ初対面の相手にわざわざ手料理作る女子なんて居ないと思うけど、万が一あったら……まだ食べる勇気は無い。失礼だけど、美味しくもないだろうし。
でもD組での様子を見た限り、まだ山岸さんへのいじめは始まっていないみたいだ。山岸さんの名前を出しても周りからの忌避感や変な関心は向けられなかったと思う。
いじめなんて無いに越した事はないけど、来年には始まるんだよな? ……気分悪いけど、始まる正確な日や原因が記憶に無いし、始まってからじゃいじめを辞めさせるのは難しいだろう。それに下手に防いで山岸さんの特別課外活動部への入部フラグをもしもぶち折ったら、きっと特別課外活動部は詰む。
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