【後日談②】そして相模南はその扉をくぐる
すぐ近くからゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。
うちどんだけ緊張してんのよ……
「失礼します……」
扉を開き視界に広がったその景色は、嫌でもあの日を、遥とゆっこと初めてこの場所を訪れたあの日の事を思い起こさせた。
『へぇ〜、奉仕部って雪ノ下さんたちの部活なんだぁ』
『自信がないっていうか……。だから、助けてほしいんだ』
『みんなに迷惑かけるのが一番まずい………失敗したくない……誰かと協力して成し遂げることもうちの成長の一つ……』
……だめだ……あまりの羞恥に顔が熱くて赤くなってるのか血の気が引いて青くなっているのかさえも分からない……
ここ最近ベッドで悶えているのとはまるで異質のうちの黒歴史。
悶えながらも、本当は胸の奥ではポカポカして優しくくすぐってくるような、あの暖かい黒歴史とはまるで別物。
胸の奥からうち自身を真っ黒く凍り付かせるかのような、そんな黒くて冷たい黒歴史。
でも……“それ”がなければ“それ”が黒歴史とは気付かないままで居たんだもんね……
人生ってホント分かんないや。
胸の奥底から沸き上がってきた黒くて冷たいその気持ちを、そのさらに奥から沸き上がってくるそんな暖かくて優しい気持ちでそっと拭うと、うちはもう一度その部室の景色をまっすぐに見なおした。
× × ×
「さがみんっ!?」
「結衣ちゃんやっほー……」
ビクついてる心をみんなに見透かされないよう結衣ちゃんに挨拶をして改めて室内を見渡すと、突然の意外な来訪者にみんな驚いた顔をしてた。
まぁ最初に声をあげた結衣ちゃんはもちろんのこと、その隣に座ってる雪ノ下さんも少しだけ目を見開いている。
比企谷にチラリと目を向けると「うわっ……こいつマジできやがったよ……」とあからさまな迷惑顔……
……比企谷、あとで覚えてろ?
そして……うっわぁ……マジで居るよ生徒会長。
比企谷とか由紀ちゃん達から話は聞いてたけど、ホント入り浸ってんのね、この子。
なんかこの年下生徒会長から早くも敵意を感じますが……
「お久しぶりね、相模さん。今日はどのようなご用件なのかしら」
「あっ……雪ノ下さん久しぶり……えっと……いくつか用件はあるんだけど、まずはうちが全然知らない時から奉仕部には色々とお世話になっちゃったみたいだから、ずっとお礼を言いたくて」
そしてうちは佇まいを整えると、その場で深々と頭を下げる。
「奉仕部のみなさん……!この度は大変お世話になりました!ごめんなさい。ホントはもっと早くお礼に来なくちゃいけなかったんだけど、正直うちがこの部室にどのツラ下げてお礼にくればいいのかって、ずっと悩んでて……それでも、ようやく決心が付いたので伺いました」
震える心と身体を踏ん張らせて、うちは嘘偽り無い気持ちを述べた。
この期に及んで自分を飾り立てたってなんの意味もないし。
「みなさんには謝らなきゃいけない事はたくさん……山のようにたくさんあるのは分かってるけど、自分の愚行で迷惑を掛けた相手に軽くて薄っぺらい綺麗事を並べ立てて謝るよりも、綺麗でなくてもみっともなくても、心からの感謝を伝えるべきだって、自分なりに考えて来ました。……うちなんかに礼を言われたってなんにもなんないかも知んないけど……単なるうちの自己満足かも知んないけど……これだけは……言わせてくださいっ……その……っ……ありがとうございましたっ……」
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