ハーメルン
クロンの呼応
第十九話:先見眼の銀愚者

 痛恨の不覚だった。
 メイの場に強力なモンスターが並び、ただでさえ苦しい状況の中。クロンが引き当てたのは、エラーが発生する為に使用できない死に札(カード)、《先見眼の銀愚者》だった。
 人に貰ったカードが傷めないよう、ポケットに入れずにデッキに入れておいたのだが、それを今この瞬間まで忘れてしまっていた。クロンは、自らの失態を深く後悔した。


【クロン】 LP:7500
手札:2枚(一枚は先見眼の銀愚者)
モンスター:護封剣の剣士(守備表示)
魔法&罠:一枚(白銀のスナイパー)

【メイ】 LP:5400
手札:1枚(海皇の咆哮)
モンスター:水精鱗-メガロアビス(攻撃表示)、バハムート・シャーク(攻撃表示・X素材1枚)、水精鱗-アビストリーテ(守備表示・X素材無し)
魔法&罠:一枚(和睦の使者)




 『先見眼の銀愚者(フォーサイトアイズ・シルバーフール)』 UNKNOWN
 「                          
                               」


「ッ――」
 本来ならデッキに入っていないはずのカードを引く。その事実は、クロンを動揺させるには十分だった。彼はポーカーフェイスすら忘れ、ありのままの表情でその衝撃を受け止める。
 その心の揺れは、当然メイにも伝わっているだろう。その原因が、場に出す事すらできないカードを引いた為だとは、夢にも思わないだろうが。
(ここで…。ここで、これを引きますか…)
 かつて姫利に「運には自信がある」と豪語した事もあるクロンだが、今回ばかりは自らの運を嘆かずにはいられなかった。
 クロンに残されたカードは《銀愚者》の他には《護封剣の剣士》と魔法・罠ゾーンの《白銀のスナイパー》、そして手札のカードが一枚あるのみ。これだけの戦力でメイの猛攻を食い止め、しかも逆転しろというのは――…あまりに難しい注文だ。
 とは言え、与えられた状況で勝負するしかない。クロンは必死で頭を働かせ、このミスをどう埋めるか思案した。
「………」
 まず最初に思いついたのが、《銀愚者》が誤ってデッキに入れたエラーカードである事を正直にメイに告げ、《銀愚者》をゲームから取り除いた上で再度ドローするという手段。将棋で言う所の「待った」に似た行為だ。
 手違いで《銀愚者》を入れたのは事実だし、このカードがエラーカードである事は明らかだ。事情を説明すれば恐らくメイもこの「待った」を承諾してくれる可能性は高く、あらゆる点で最善の策に思える。
 だが、クロンはそうはしなかった。そうした方が良いと知りつつ、敢えてその行動を却下した。その理由は一つ。今戦っているメイが、姫利に紹介された決闘者であったからだ。
 誤ってデッキにエラーカードを入れ、それを理由に「待った」をかけるのは、決闘者として恐らく恥ずかしい行為なのだろう。そんな醜態を姫利に知られたくは無かったし、その事で姫利の顔に泥を塗りたくはなかった。
 彼女に弟子入りしてから約十日。クロンは今でも姫利を尊敬していたし、憧れの存在として見ていた。だからこそ、ここは敢えて自分のミスを受け入れる。例えその決断が、自分を追い込むとわかっていても。

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