第四話:アルファベット
初めて決闘盤を使ったクロンにとって。カードの知識に乏しいクロンにとって。それは初めて目の当たりにする光景だった。
百合の背後に現れた「D」「G」「O」、アルファベットの形をした三種のブロックは、宛ら衛星の様に百合の周りをぐるぐると回る。
立体映像による演出、とまでは理解できたが、それが何のカードによるものか、これから何が起こるかまでは直感でわかるものでもない。
(何か、仕掛けてくる…!)
ただ一つ確かなその事実だけを受け止め、クロンはにやりと笑みを作る。来るなら来い、と言わんばかりに。その自信に何の背景も無い事は、重々承知しながら。
「百合の奴、思ったより早く動いたわね」
クロンと百合の戦いを眺める第三者。姫利が驚いた表情で呟いた。
百合のデッキは元より、その行動パターンまで熟知している彼女にとって、百合がこうも早く行動を開始したのは意外だったらしい。序盤から期待を裏切る展開に、彼女は微笑する。
「DとGとO…。さて、犬が出るか神が出るか。それをあの子はどう捌くか。見物だわ」
たまには見る側に回るのも悪くない。そう思いながら、姫利はまた無言の観客へと戻った。
【クロン】 LP:8000
手札:3枚
モンスター:トイ・マジシャン(守備表示)、裏守備モンスター×1
魔法&罠:無し
【百合】 LP:8000
手札:5枚
モンスター:裏守備モンスター×1
魔法&罠:無し
「んじゃま、種明かしでも。私は魔法カード、融合を発動して、手札の三枚のモンスターを融合させるよん」
そう言って百合は手札から四枚のカードを選び、提示する。
一枚は言葉通り「融合」のカード。残る三枚は、《アルファベット・D》《アルファベット・G》《アルファベット・O》という名前に関連が見えるモンスターカード。
百合はそれらのカードを決闘盤に読み込ませてから墓地に送ると、続いてエクストラデッキから一枚のカードを選んで決闘盤に叩きつける。
「んでもって呼ぶのはこのカード! 《D.O.G-アームドッグ》を、融合召喚って言うね!」
三つのアルファベットが集まり、新たな形を形成する。三つの文字を消費して生まれた新たな単語は、その名の通り犬の形をしていた。
否。このモンスターを「犬」と呼ぶのはやや違和感があるか。シルエットこそ犬ではあるが、甲殻類を思わせる装甲を身に纏い、目は額から鼻先に掛けて三つ、縦に並んでいる。
大きさも人間と同等或いはそれより少し上で、毛の色も不気味な赤紫色。少なくとも、犬としての愛らしさを見つける事は難しそうだ。
「ん、なるほど…。DとOとGを合わせてDOG、だから犬型のモンスターって訳ッスね」
「ほー。思ったより物分りいいじゃないの。んじゃ、私も物分りよく攻撃をしますかね」
にぃ、と笑った百合を見たのも束の間、三つのアルファベットから生まれた魔犬が雄叫びを上げながら《トイ・マジシャン》に飛び掛かる。
ブロック造りの魔術師と言えど。いや、ブロックだからこそ、魔犬の前には所詮玩具にしかならず、強靭な顎と牙の前に粉々に砕け散った。守備表示で出していたのでクロンにダメージは無かったが、果たしてこれを不幸中の幸いと呼ぶべきか。
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