第六話:春風姫
クロンと百合のデュエルの翌日。学校を終えた姫利は一度帰宅して着替えると、いつものカードショップに足を運んだ。
店に入り軽く店内を見渡すと、やはり今日も、例の少年がテーブルに座っていた。
その隣には、授業が終わるなり教室を飛び出していた友人、百合の姿もある。今日は待ち合わせの約束はしていないので、彼女が勝手にやって来たのだろう。
(ま、予想はしてたけどね)
呆れた笑みを浮かべながら、姫利は二人に歩み寄る。どうやらクロンがデッキを改造していた所だったようで、テーブルには何枚ものカードが散らばっていた。
「おっす、クロンくん。百合もおっすおっす」
「あ、姫利お姉ちゃん。こんちはー」
「やほー姫りん。お弟子さん先に頂いてるよー」
二人の視線が同時に姫利に向く。昨日と今日ですっかり意気投合したのか、振り向くタイミングが全く同じだった。
姫利は隣同士で座っている二人に向かい合うように椅子に座ると、まずはにこにこ笑ってカードを眺めているクロンに目を向ける。
「今日はいつも以上に上機嫌ね。何かいいアイデアでも思いついたの?」
そう尋ねると、クロンは顔を上げて「イエス!」と更に笑みを輝かせた。
「昨日のデュエルで勉強できたし、新しいカードもいっぱい買ってもらったし! もう最高ッスよ!」
「そう、よかったわね」
笑いながら頷いた姫利だが、彼が口にした「買ってもらった」という一語が妙に気に掛かった。
そしてふとテーブルに散らばったカードを見てみると。その殆どが昨日まで彼が持っていなかったカードだった。
その中には小学生のお小遣いでは気軽に買えないような高価なカードも混じっている。それも一枚や二枚ではない。親にせがんで買ってもらったにしても、あまりに多すぎる枚数だ。
(まさか…)
これらのカードを誰に買ってもらったのか。ピンと来た姫利は、わざとらしく口笛を吹いて顔を背けていた百合の方を睨む。
この店で彼にカードを買い与えそうなのは、姫利が知る限り彼女しかいない。白々しい百合の態度を見れば、尚更その疑惑は強まっていく。
「ゆ~り~ぃ? あんたまさか…」
怒気を孕んだ声で百合の名を呼ぶと、彼女はとぼけた声色で、しかしながら少しも否定せずに答えた。
「いーじゃん別にカードくらいー。私のお金なんだしー、見返り要求した訳でもないしー。愛人に貢ぐおじさんとかに比べればー。全然、健全な使い方だしー?」
「小学生に高いカードぽんぽん買ってどうすんの! しかもこんなに! てか、あんたいったいいくら使ったの!?」
「ぐぅ…。べ、別に無駄遣いしてないし。二人の諭吉博士にお許し下さいしただけだし…!」
「に、にまっ……二万円!?」
目眩がして倒れそうになるのを辛うじて堪える。軽い性格だとは思っていたが、まさか昨日会ったばかりの小学生相手に浪費するほどとは思わなかった。
そう言えば昨日、新しい服を買いたいという事を彼女は言っていた気がする。その服の為の軍資金をそのままカードに回したという事か。
もちろん、百合が自分の所持金をどう使おうと彼女の勝手だ。が、そのあまりの計画性の無さは親友として口を出さずには入れなかった。
姑のように小言を続ける姫利と、悪びれずに口を尖らせる百合。そんな二人の様子を、クロンは不安げに眺めていた。
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