ハーメルン
家賃1万円風呂共用幽霊付き駅まで縮地2回
未定

とある何でもない日の夕方。

「エリザさ、風呂っていつ入ってんの?」

 俺の口から漏れた何気ない一言。本当に何気ない、何の意識もしていない言葉だった。
 普通の人間なら、いきなりそんなこと言われたら『え、なんだって?』とか『ぷんすこっ』とか『お、それ聞いちゃう系? カァーつれーわ!』なんて反応をするだろう。
 だが、どうやら幽霊の彼女はヒトではない(分かりにくいパロディ)。エリザは俺の予想外のリアクションをとった。

「え?」

 先ほどまでふわふわと宙に浮いて機嫌良く縫い物をしていたエリザが、俺の些細な一言を聞いて……ポトリと床に落ちたのだ。さながら蚊取り線香に捉えられた蚊の如く、床にぺしゃりと落ちたのだ。
 この場合に落ちるは重力に引かれて落下するという意味の落ちるであり、女騎士の『堕ちる』ではない。だが堕ちたエリザ『ダークエリザ』はいつか見てみたい。心優しいエリザが闇堕ちしたことによって、俺をどんな目で見てくるのだろうか、俺気になります!

(あ、やべ。まずいこと言っちゃった?)

 尋常じゃないそのリアクションを見て、俺は今更後悔した。
 床に落下したエリザは、ゆっくりと体を起こし、ゆっくりと四つん這いのまま俺の方を向いた。そしてシャカシャカと素早い動きで四つん這いのまま俺に迫ってきた。

「うおっ」

「な、何で!? なんでどうして!?」

 獲物に追い詰められたリスのような、今にも泣き出しそうな……っていうか実際目の端に涙を浮かべたエリザは、あぐらをかいている俺を真正面から見つめてきた。

「ねえ辰巳くんっ? も、もしかして、もしかして……わ、わたし臭いの!? に、臭っちゃってるの!?」

 その言葉を吐いたエリザは、それはもう混乱していて、パニックを起こした子供のようだったよ……(孫に語り掛ける風に)
 それはそうと、実際エリザが臭いかどうかは後に置いておいて、エリザのような美少女が臭いっていうのは、かなり興奮する要素であると思う。
これに関しては否定派もいるだろうけど、俺は肯定派だ。美少女が臭い、いわゆるギャップだ。人はギャップに惹かれる。
会社では冗談の一つも言わない糞真面目な女上司が夜はSMのキングだったり、男と遊びまくりのビッチが実は惚れた相手には尽くしまくる一途系女子だったり、半人前以下のへっぽこ魔術師が実は無限の……だったり。
 人はそういったギャップに惹かれてしまう。ちなみに俺も基本的に人見知りだけど、漫画とかアニメの話題の時はすげぇお喋りになるってギャップがあるから、惚れてもいいよ?
 近づいてきたエリザを落ち着けるように、穏やかな声で話しかけた。

「いや、臭くないと思うけど」

「ほんとに!? ほ、ほんとに臭くない?」

「いやいや本当だって」

「ほんとに? ……そ、そっか。よかったー」

 未だ涙を浮かべたままほっと胸をなでおろすエリザ。
 が、何かを決意するかのように、その口がキっと結ばれた。

「……い、一応確認して。ちゃんと確認してくれたら納得するから」

 俺が答えるのを待たず、そのまま近づいて体を預けるように俺の胸元に頭を押し付けてくる。『いくらなんでもこんな至近距離から匂いなんてかげるか! ちょっと冷静になれよ! ロックユー!』と俺のワイルドな部分がズズイと前に出てきそうになったが、ほぼ真下にあるエリザの頭から香る髪の匂いでディラックの海に還った。

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