第十三話 達也の気持ち
『どうやら僕は桐生さんが好きになっちゃったみたいなんだけど……どうするべきかな?』
俺はその相談にろくな答えを返してやることが出来なかった。俺に恋愛経験はないし、そもそもそうなることもない。
ただ、それからというものの考えていることはある。
◆
自分の意思が薄い。
流されるままに仕方ないと諦めている。
折角沢山の才能があるのに、それをなんでもないもののように扱ってる。
前に美月からそんなことを言われたことがある。
その時俺は何と答えたか。
よく覚えていないが、きっと今と同じことを言ったはずだ。
流されている、諦めている、その通りなのかもしれない。だがそれは悪いことだろうか。俺はそれも悪くないと思っている。
隣で笑ってくれるただ一人の妹がいてくれるなら、俺はそれで構わない。
これは美月にも言ったことだが、どれだけ才能があっても出来ないことの方が多い。そして、自分の欲しい才能を持ち合わせている人間というのは稀だ。
俺自身、本当に必要だった力は持ち合わせていなかった。それは努力ではどうにもならない力で、だから、代償を払って、文字どおり、魂を売って力を手に入れた。
だから俺は妹のそばにいられるし、守ることができる。ならば、流されようと、諦めようとそれは俺が選んだことであり、そうなったことに不満などあるはずもない。
「達也はたぶん『良い人』なんだよ。俺は不幸だって、どうして俺がって、思わないんだから。それは美徳かもしれないけど、楽しくないよね。それに、周りの、達也を大事に思ってる人達が悲しむだけだと思う。理不尽な不幸って沢山あると思うし、嫌なことや辛いことなんて人生で数えきれないくらいあると思うんだ。その数えきれない辛さを達也は一人で抱え込もうとするタイプだ。達也の近くにいる人は悲しいよ、頼ってもらえないし、達也が辛いのも嫌だもの」
それは何時の言葉だったか。
美月が珍しく真剣な顔で少し怒ったように言った言葉だったのは覚えている。
美月は俺のことをどれだけ知っているか、といえばほとんど何も知らないだろう。
俺と美月は出会って一年も経っていない。お互いに何かを知るには短い時間だった。それに俺は意図的に自分のことをあまり知られないようにしていた。中学校という場所ではあまり交遊をしないようにする、と決めていたし、万が一まずいことを知られれば、それはお互いにとって不利益にしかならないからだ。
だから美月はきっと、俺の何かを知っていてその言葉を発したわけではないのだろう。
俺は規格外のサイオン保有量を持つ父と、四葉家直系の『特別』な魔法師である母の息子として生まれながら先天的な魔法演算領域を『分解』と『再成』、二つの魔法に占有されていたために、通常の魔法師としての才能を持たなかった 。
妹はその二つの魔法を才能だと言うが、それは余分な才能であり、必要な才能は通常の魔法師としての才能だった。
魔法師でなければ四葉家の人間として居られないからだ。
だから実の母親に6歳の時、『強い情動を司る部分』を白紙化され人工魔法演算領域を植え付ける精神改造手術を施された。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク