ハーメルン
美月転生。~お兄様からは逃げられない~
第十三話 達也の気持ち

それによって俺は普通の魔法を扱えるようになったが、人工魔法演算領域は一般の魔法師の持つ先天的な魔法演算領域に比べ性能は劣っている。
『強い情動を司る部分』、『兄妹愛』という衝動を除いた全てを代償にして得た力はそんな程度、感情を失ったわけではないが人間として何かが『欠損』してしまったことは間違いないだろう。

それでも俺は自分を不幸だとは思わなかった。
必要な才能を持たずに生まれた俺が悪い(・・・・)し、多少、欠損があったところで死ぬわけではない。魔法を得るために仕方のないこと(・・・・・・・)であったし、それに不満はなかった。

これで妹を守れるのなら、それは別に失っても良いものだった。


分解と再成、俺にあった二つの才能を使い四葉家の戦闘訓練をこなし、軍人から格闘技の指導も受けた。学業でも優等生と思われるくらいには賢かったはずだ。妹を守るための力を得て、妹の評価を貶めないために優等生を演じる。簡単なことだった。


さて、俺のどこが不幸だというのだろうか。
考えたこともなかった。考えることを止めていた。それが流されているということなのだろうか。

どうしてか、美月の言葉は俺を揺さぶる。


「だからさ、うん、達也、嫌なこと、辛いことがあったら暴れちゃいなよ。好き勝手やって、喚いて嘆いて。それに正当性がなかったら、たぶん、ぼくか、薫か、深雪か、誰かが止めてくれる」


まるで子供だ。
美月は頭は良いが、馬鹿だ。
言っていることはため息を吐きたくなるくらい馬鹿な発想で、他人任せも良いところ。


なのにどうしてだろうか。こんなにも響くのは。





「深雪ー!ヌード描かせて!ヌード!」


「なっ美月!ちょっどこ触ってっ……お兄様ぁあー!」



柴田美月。
同い年で同じクラス。
母が翻訳家だからか、得意教科は英語。
元サッカー部で全国でも指折りの実力者であったが、今ではすっかり絵を描くことに夢中で、賞を取ったことで美月の絵画には数十万円の価値がつくこともあった。だというのに、何故か今は月芝 美の名前でイラストレーターとして活動しており、アニメのキャラクターデザイン、ライトノベルの挿し絵などを請け負っており、締め切りに追われながら忙しくしている。アミューズメント施設の新アトラクションやキャラクターのデザインを担当したことで、月芝 美はさらに忙しくなることだろう。



「はぁ…またか」


「げ、達也!やめ…ぎゃあぁあああ!!」


俺が知っているのはこの程度。
そう、たったのこれだけだ。



『変わるさ、お前は間違いなく。理屈なんて関係ない、これから美月に関わっていけば、お前は変わる』


薫は俺にそう言った。かつて自分もそうであったと。美月にはそういう力があるのだと。


俺が変わりはじめているのか。
それはまだ分からない。

分からないが──


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