ハーメルン
美月転生。~お兄様からは逃げられない~
第十九話 美月の窮地

ぼくは服装にこだわりを持っていない。
強いて言うのなら動きやすく、シンプルなものを好む。まあ、だから結局ぼくの持つ服はほとんどジャージになってしまうわけだ。
元々、サッカー以外はインドアなぼくは出掛けることも少なく、学校の制服とジャージがあれば何不自由なく生活できてしまうのだからそれを改めるはずもない。

そんなぼくではあるが、着たくない服というものは存在する。

それはスカート。
男に媚びるために生まれてきたかのような、穿いているのか穿いてないのか分からないくらいの、ただの布。
見るのは好きだ。中身を想像してワクワクするその気持ちは大切だと思う。

でも、自分が穿くとなったらそれは別だ。

普通に恥ずかしい。恥ずか死ぬ。
学校の制服でさえ実は恥ずかしいというのに、わざわざ私服でまで穿きたくはない。


だというのに……。



「美月、我が儘は駄目よ」

「理不尽だ!横暴だよ!ぼくは絶対穿かないかんね!」

「貴女にだけは理不尽やら横暴やらとは言われたくないのだけど」


深雪が持ってるのはただのスカートじゃない。ミニスカートだ。
馬鹿なの?なんでわざわざ短くしたの?実に素晴らしいよ、ぼくが穿かなければね!



「薫、美月を試着室に押し込んで」

了解(りょーかい)



完全に本気になったらしい深雪による指令で、ニヤニヤとしながら迫ってくる薫。
ぼくは抵抗するも迅速かつ簡単に取り押さえられてしまう。
そして、そのまま試着室へと押し込まれ……。



「さて美月、お着替えしましょうか?」


そこには手をワキワキとさせて満面の笑顔を浮かべた深雪が。

うん、そういうのぼくの役割……。


ぼくの悲鳴がきっと店内にこだました。






「……死にたい」


試着室に押し込まれ、深雪に攻められること十数分。そこには無惨にもヒラヒラの服に着替えさせられたぼくがいた。

ヒラヒラと揺れるフワッと広がった裾のスカート。

ぼくはファッションには疎い、というか全く気にしていないので分からないが、ラメの入った格子柄で、深雪曰くサーキュラースカートというらしい。ウェストのところにゴムが入っていて着心地は楽なんだけど……短い。

スカートに合わせて、セーターみたいな縦線のいっぱい入ったモコモコの服を着せられているからその裾を両手で伸ばして隠そうと頑張るけどいくらも伸びはしない。黒いタイツを穿いているから生足じゃないんだけど恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。ぼくがスカートを穿いているという事実がそもそも恥ずかしいのだから。



「何モジモジしてんだ。似合ってるぞ、大人っぽくて美月じゃないみたいだ」

「そうだな、たしかに普段の美月とは印象が違う」

「美月が黒のタイツを穿いていましたので、それに合わせてシンプルにモノトーンでまとめてみました」


深雪が得意気にぼくの服装について解説をしているけどぼくはそれどころではない。

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