第五話 相談
サッカー部を辞めて数日。
絵を描くための道具を揃えたり、有名な絵画を見に行ったりと、やるべきことは沢山あるのにどうにもやる気が起きない。
何だかぼーっとしている時間が長くなってしまい、気がついたら時間が経っている、という毎日だった。
「はぁ……なんでだろ?」
今日も一日の授業を全て終え、放課後となったのだがどうにも帰る気にならず、机につっぱしてぼーっと外を眺めていた。校庭ではサッカー部が試合形式で練習をしているのが見え、以前のぼくならすぐにでも交ざりたくなったことだろう。それだと言うのに今のぼくと来たらここから一歩だって歩きたくない。
「あら、美月。こんな時間まで何をしているの?」
珍しく一人の深雪さんがぐでーっとしているぼくを見つけて教室に入ってきた。なんでも、達也が委員会の集まりで遅くなるから待っていたらしい。先に帰れば良いと思うんだけど、この二人に限ってそれはないのだろう。
「なんだか貴女らしくないわね、そんなにぐったりして、風邪でもひいた?」
「んー…違うと思う…けど……ねぇ深雪さん、ちょっと相談いいかな?」
「ええ、大丈夫よ」
親友に相談したら病院行けと一蹴されてしまったけど、深雪さんなら何か適切なアドバイスというか対処法的なものを教えてくれるかもしれない。これで駄目だったら本気で病院に行くことも考えた方が良いだろう。
「実は最近、なんだかぼーっとしちゃって何も手につかないんだ、なんかモヤモヤするっていうかチクチクするっていうか」
「…………えーっと美月、それはたぶん──」
深雪さんが若干呆れ顔で何かを言おうとした瞬間、教室のドアが開いた。
「深雪、ここにいたのか。すまなかったな、思っていたよりも時間が掛かってしまった」
「いえ、美月もいましたし」
入ってきたのは達也だった。
どうやら深雪さんを探していたようだけど、ぼくより先に深雪さんですか。そうですか。そうですよね、達也はシスコンだもんね、シスターコンプレックスだもんね。
「美月もすまなかったな」
「えっ……んん、深雪さんに付き合って残っていたわけじゃないから別に気にしないで」
なんでだろう?さっきまでのイライラがなくなって代わりに胸が暖かくなった。それに心なしか心臓がドキドキする。
「そうだ、深雪、今日は遅くなってしまったし夕飯は外食にしないか?」
「私は構いませんが……」
達也の提案に深雪さんは遠慮がちに同意し、何故かこちらに視線を向ける。
「最初からそのつもりだよ、…美月、良ければ一緒にどうだ?」
「え、あっ、えーっとよろしくお願いします?」
突然のお誘いに何故かぼくは深々と頭を下げて達也に右手を差し出していた。何なの、アホなの?
顔が赤くなっているのが分かる。うぅ、なんでかいつもどおりに動けない。ぼくの思考がふわふわしていて、心臓がドキドキしていて、全然らしくない。
「なんだ、変な奴だな」
「ひゃう!」
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