ハーメルン
斯くして、一色いろはは本物を求め始める。
2#08

  *  *  *

 わたしを訪ねてやってきた総武高校内では最高峰に属するトップカーストの二人、葉山隼人と三浦優美子という存在がこの場にもたらしたものはざわめきだった。
 わたしが葉山先輩に夢中になっていた時は、わたしのほうから訪ねたことはあっても、葉山先輩のほうから訪ねてきてくれたことは一度もなかった。
 そして、もう一人の三浦先輩は葉山先輩に明確な好意を抱いていて、わたしのことを恋敵として警戒していたはずだ。今は葉山先輩に近づかなくなったおかげか、顔を合わせれば挨拶くらいはしてくれるようになった。でも、それ以上でもそれ以下でもないように思う。
 だからこそ、そんな二人がわたしを訪ねてくるというのは違和感を覚える。
「お二人ともどうしたんですかー?」
「いろはが心配になってね。いろいろ大変なんだろ? 俺にできることがあるなら遠慮なく言ってくれて構わないから」
「あーしもそんな感じ」
 ふむ、とりあえず話を合わせますか。
「ありがとうございますー!」
「隼人もこう言ってるし、なんかあったらちゃんと言いな。それにあーし、あーいうの、ほんっと嫌いだから。マジ迷惑」
 言って、三浦先輩はキッと睨みつける。その鋭い視線は、特定の誰かに向けたものではなかったのだが、ただ、得体の知れない悪意には突き刺さった気がした。
「おい、優美子」
「隼人だって嫌だったっしょ、あーいうの。みんな迷惑してるっつーの」
「まぁ……そうだな」
 鋭い睨みをきかせた三浦先輩とは対照的に、葉山先輩は愁いを帯びたような表情をする。
「……とりあえず、ここでする話じゃない。場所を変えようか」
「あ、じゃあ生徒会に連絡だけしちゃいますんで、少し待ってもらえますか?」
「ん」
「すまないな」
「いえいえ! お二人がいてくれるだけで心強いです!」
 わたしは遅れる旨を打ち込んだメールを副会長に送信する。そのまましばらく待っていると返信があり、中身を確認した後は二人のほうへ向き直り、頷いた。
「それじゃ行こうか」
「はい」
 わたしがそう返事をして葉山先輩に続くように教室の外へ出ようとすると、様々な視線が向けられていることに我慢の限界がきたのか、三浦先輩が吐き捨てるように言った。
「あー……ほんっと、うざい」
「……優美子」
「わかってるし……」
 不機嫌そうに歩き出した三浦先輩と、その隣で諦観したような表情を浮かべながらなだめる葉山先輩。
 なんだかお似合いな二人だなーと思いながら、わたしもそれに続いた。

  *  *  *

 そうしてわたしが連れられてきたのは、奉仕部の部室だった。もちろん、途中からどこへ向かっているかは気づいていたのだが、葉山先輩に今は何も言うなと視線で訴えられてしまったので、わたしは何も言わずに黙ってついていく。
 葉山先輩が扉に手をかけると鍵はかかっていなかったようで、何の抵抗もなく開いた。そのまま葉山先輩と三浦先輩は中に入っていったので、わたしもそれに続く。
 すると、意外なことに中にはわたしたち以外は誰もおらず、ただ静寂だけが広がっていた。
「……あれ? 誰もいないんですか?」
「ああ。雪ノ下さんも、結衣も、比企谷も平塚先生に呼び出されているからな。ここにいるのは俺たちだけさ」
「そういうこと」
「……えっと、お二人はなんでわたしをここへ連れてきたんですか?」

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