ハーメルン
英雄になりたいと少年は思った
ベル・クラネルの長い一日①

 正式にレフィーヤの子分となったベルは、冒険者として行動する時は基本的にレフィーヤの監督を受けることになった。

 ダンジョンに行くのも訓練をするのも一緒と、顔を見ないと落ち着かないくらいの密度でレフィーヤと行動をするようになったベルは、他の団員から見ればレフィーヤが飼うペットの兎のようだった。最初こそ幹部に贔屓されているとのやっかみもあったが、ベル本人の人当りの良い性格とレフィーヤとのコンビの微笑ましさもあって、ベル・クラネルという少年は次第にロキ・ファミリアの冒険者達に受け入れられていった。

 後輩の面倒を見ることに時間を取られるというレフィーヤの懸念も、良い形で解消されることになる。ベルの監督をしているレフィーヤは、彼と纏めてリヴェリアの傘下に入ることになった。これは正式にファミリアとしての辞令が降りた訳ではないが主神であるロキが決定したもので、リヴェリアもそのように動いている。

 今までもリヴェリアには目をかけてもらっていたレフィーヤだが、これからはより彼女に面倒を見てもらえることになったのだ。現にベルと一緒にダンジョンに行く時は、たまにリヴェリアも同行してくれる。いくら話を聞きたくても声をかけにくい所にいた人が、向こうから声をかけてくれるようになったのだから、その成果はベルの面倒を見ることに時間を取られても余りある程である。

 そういう頼みをされるかも、という時にレフィーヤが感じていた懸念は、リヴェリアの指導の成果を実感するにつれ、綺麗に消えていった。自分の心配がなくなれば、後はもう後輩のベルのことだ。今はもう、ベルの教育に専念している程である。

 そのベルの教育であるが、自分の命を守るために鍛錬を欠かさない冒険者の中でも、更にストイックに鍛錬をすることで有名なロキ・ファミリアの団員でさえ、その密度に思わずげんなりする程、過酷なものだった。

 まず、朝起きて身だしなみを整えてベルが向かうのは、リヴェリアの部屋である。この時点で身だしなみが合格ラインに達していないと、朝から拳骨を落とされることになる。これは冒険者である以前に、人間として当たり前の行動だ。失格した時は小言を言われながら、リヴェリアの膝の上で髪を梳かされることになる。耳元で囁かれる穏やかな声も、何とも言えない良い匂いも、ただそれだけならばいつまで聞いていたい、嗅いでいたいものだが、女性の膝の上というのは男として恥ずかしい。

 せめて次はちゃんとしようと思いつつも、何度も何度も不合格を貰うベルである。一体何がダメなんだろうと、リヴェリアに素直に疑問をぶつけてみたことがあるが、その問いを聞いたリヴェリアは、小さく笑いながらベルの頭を小突き、言った。

「それが理解できない内は、私の膝はお前の指定席だな」

 朝から恥ずかしい思いを味わったベルは、その後にリヴェリアから今日の課題を言い渡される。

 それはその日によって様々であるが、その日ごとに前日よりも厳しいノルマが課せられるのだ。例えばこのモンスターを何匹討伐してくるように、というものだがそれは本人のコンディション、ダンジョンの状況を全く考慮しない厳しいものだった。日が悪ければそのモンスターと遭遇しないこともあるが、そのくらいではリヴェリアは許してくれない。

 多少のことでは自分の課題を曲げないと、一昼夜ダンジョンを彷徨ったことで心で理解したベルは、とにかく迅速に動くことを第一とした。素早く動いて素早く見つけて、素早く倒す。何よりそのモンスターを見つけなければ話にならないから、ダンジョン内をとにかく走る。

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