7.図らずとも訪れる雪の下
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その日は、思いのほか早く訪れた。
視界一面を覆うほどの白、雪の世界が外に形成されていた。交通は完全に麻痺し、いつもであれば人で賑わっているはずの「ねこのみー」も、今日ばかりは静けさに満ちている。
ふと外を見れば、どうにも辛気臭いほどの灰と白の群れに、人などこれっぽっちもいない――時折車だけが行き交う店の前の通りだけがあった。
「ねこのみー」は私達の暮らす街の中心部、駅のほど近くにある。当然そこにはさほどレアではないペースで、人の行き来があるのだ。もちろん、その中には「ねこのみー」にやってくる客も居る。
それが根本から失われてしまっては、人の往来など望むべくもないというわけだ。
そんな冬に満ちた休日の「ねこのみー」、私としてはついに春休みに突入した最初の土日だというのに、なんだかこれでは寂しく感じられる。店内には、この雪の中をかき分けてやってきたグループが、私達を含めて二つほど。
「むぅ……これ、帰る時が憂鬱なんですけど……」
「アタシの家の迎えを呼ぶわよ、それに乗って行きなさいな。ついでに歩さんも、それでいいかしら」
――私と、それからキリカちゃんにアイカさん。店員である高橋くんも合わせていいのだろうか。
「あ、ほんと? ありがとう。助かるよー」
そしてもう一つは、この店ではキリカちゃんたちと並ぶ古参の常連らしい、QEDさん達。何にせよ、その空気は一言で言うなら「いつものメンバー」だ。普段ならもう少し一見さんにも優しい店なのだけれど、この外の状況と、店の中のメンバーでは、それもそうは望めない。
「……<ネフィリム>でダイレクト、何かあるか?」
「ぐわー! 何もねーよ畜生!」
その証拠に、普段なら勤勉に業務へ勤しんでいる高橋くんも、今はQEDさん達とフリーデュエルの最中だ。猫宮さんの姿もない、どうやら裏方に引っ込んで、回収してきた地元の野良猫数匹と戯れているようだ。
「しかしこの様子だと……十人切りますね、大会参加者」
「ここに居るメンバーを含めて九人……猫宮さん次第ね」
何やらキリカちゃんたちはそんなことを歓談中、悪巧みの最中だろうか。……つまり、どういうことなの?
「――あら、これならギリギリ参加圏内じゃない」
アイカさんは決まりきった様子で言う。それは、その時が来たのだと。
「冴木が、数合わせで大会に混ざるんじゃないかしら」
運命の時を、知らせる類のものだった。
◆
「――というわけで、今回は高橋くんも入ってくれる?」
時間が来た、ついに私達以外にやってくる客はおらず、大会は奇数のまま始まることに、そのままではいけないと、猫宮さんは高橋くんの投入を決定したようだ。
これで、キリカちゃんとアイカさんたちにとっては半年ぶりの、私にとっては初めての、大会における高橋くんとの直接対決が、決定した。
「……何だ、妙に全員気合入っているが」
「そりゃそうだろ、入らない理由がねえ」
よくわからない、という様子でこちらを見ている高橋くんに、QEDさんがそういった。私にしても、キリカちゃんにしても、アイカさんにしても、そして勿論QEDさんにしても、その事実は変わらない。
「別に俺とデュエルなんて、いつもやってることだろうに」
「だからこそですよセンパイ! いつものセンパイとは違う、集中した本気のセンパイと私は戦いたいんです!」
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