第7話 『孤独』
その少女は、ずっと1人だった。
幼い頃からコミュニケーションが苦手で、“誰かに話し掛ける”という普通の人ならば何でもないように思えることができなかった。子供というのは自分達と少しでも違うところがある者にはとにかく厳しく、自然と周りの人間から省かれるようになった彼女はますます1人となっていった。
しかしその少女は、ずっと1人ではなかった。
彼女の傍には、常に“あの子”がいた。周りの人間がどれだけ彼女を冷遇しようとも、その子だけはけっして見捨てることはなかった。少女も、けっして裏切ることのない存在に安心しきり、いつもその子と一緒に遊んでいた。
しかしそれが、少女の孤独をさらに深めることとなった。
その子は、少女以外には見えなかった。
見えない存在に話し掛ける少女の姿は、周りの人間には奇異に映り、ますます少女の周りから人がいなくなった。それまでは少女に同情的だった大人も、少女のそんな姿を見た途端に子供達と同じ目を彼女に向け、離れていった。ついには少女にとって最後の砦であるはずの両親ですら、そんな大人達の仲間入りを果たし、一つ屋根の下で暮らす少女のことを腫れ物のように扱い、仕事を言い訳に家にすらあまり寄りつかなくなった。
しかしそれでも、少女は寂しいと思うことはなかった。自分の傍には常に“あの子”がいて、けっして自分を裏切ることはない。どれだけ自分の周りから人がいなくなっても、“あの子”さえいてくれたらそれで良かった。
そんな彼女に、転機が訪れた。
“あの子”と一緒に夜の散歩に出掛けていたとき、年上の綺麗な少女が話し掛けてきた。小学生の少女が1人で夜出歩いていることを危険に思い、声を掛けずにはいられなかったという。別に何かあっても“あの子”が守ってくれるので心配いらないと思っていた少女だったが、久し振りに人間から心配されたことが素直に嬉しかった。
それからしばらくは、その女性と一緒に過ごすことが多くなった。共働き(という名目)で少女の両親が家を空けるとき、その年上の少女がお気に入りのホラー映画を持って少女の家を訪れるようになった。自分のすぐ傍に人肌がある心地よさに、少女は以前よりもよく笑うようになった。その頃からか、今まで自分を避けるだけだった周りの人間が、時々意識が抜けたようにこちらを見つめるときが多くなった。
そんな日々が半年ほど続いたある日、年上の少女がアイドルになることとなった。元々彼女は趣味で楽器をやっており、スタジオを借りて練習していたときにスカウトされたらしい。遠くに行ってしまうことを寂しく思った少女だったが、彼女の幸せを願って応援することを選んだ。その夜はベッドに潜り込んで静かに泣いたが、傍にあの子がいたので乗り越えられた。
このまま彼女との交流も無くなってしまうと思っていた少女だったが、なんと彼女はユニットのメンバーを連れて戻ってきた。住まいは以前の家とは違う丘の頂上になったが、彼女は依然と同様に少女と交流を持ち、さらにはメンバー達と住む家に少女を招待するようになった。ユニットのメンバーも少女を快く迎え入れてくれ、少女の人間の友人は以前よりも多くなり、少女はますますよく笑うようになった。
そして少女の笑顔が多くなるのと反比例して、“あの子”と会話する頻度が少なくなっていった。
* * *
「さてと……」
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