第09話「主をなくしたディオダディ古城」
一ヶ月半ぶりにエルメルの町に帰ってきた。
五十日足らずだというのにずいぶんと久しぶりに思える。
家の前にただよう懐かしい臭い。
ジャガイモのスープだな。
私の大好物だ。
ノックするか迷ったままの丸めた手でドアを押して敷居をまたぐ。
「ただいま……」
声を出すとテーブルに座る人物がこちらを見返してくる。
「まあ……まあまあ、メルちゃん! おかえりなさい」
「おお! よく帰って来た! おかえり。メル」
母と父が顔をほころばせ出迎えてくれる。
「お帰りなさいメルさん! ほら、いつまでもそんなところに立ってないで座って座って!」
金髪のエルフも満面の笑みで迎えてくれる。
おい待てよ。
なんでお前がいる。
テーブルには父と母の他にもう一人。
ゼバルダで別れた引きこもり系魔法使い――アイラがいた。
彼女は我が物顔でスープをすすっている。
『わぁ、アイラたんだ~。おにいたんと再会のちゅっちゅしようよぅ』
久々の帰省は波乱の幕開けとなった。
部屋には私とアイラ、おまけにシュウが集う。
椅子に私。ベッドにアイラ。床にシュウがそれぞれ位置する。
「どうしてここにいるのか。それを一から説明しなければなりませんね」
引きこもってばかりいたから、また追い出されたんだろ。
「それだけではありません」
なんともはや。
それだけではない、と。
お前はいったい何をやらかしたんだ。
「何もしなかったんです」
……もう、帰ってもらっていいか。
「そう言わないで聞いてください。あれは、メルさんを見送って五分後のことです――」
彼女はことの顛末を本当に一から話し始めた。
もちろん私は長話が嫌いなので華麗に聞き流す。
あとでシュウがまとめてくれたものを聞こう。
『つまり、里の長老をしてるお爺ちゃんに超上級ダンジョンをクリアしてくるよう頼まれたんだね』
そういうことらしい。
どうしてこのエルフは一言で終わることを長々と話すのだ。
百年も生きていると時間に対する感覚が緩くなっているのだろうか。
うん……?
長老がお爺ちゃん?
『メル姐さん。ちゃんと話を聞こうよ。前にも話してたじゃない。アイラたんはエルフの里の跡継ぎ。穀潰しのぼんぼんだよ』
そんな話は聞いた記憶がないぞ。
『ゼバルダ大木で、家を追い出された経緯を話してたときに言ってたよ。メル姐さんは俺を踏んでた気がする』
じゃあ、お前を踏んでたんだろう。
話を聞ける訳がない。
「なんという理屈。とにかくですね。南にある超上級ダンジョン――ディオダディ古城のボスを倒してきてくれと頼まれました。長老のお願いは、里では至上命令です。私一人では絶対無理なので、こうやってメルさんのご自宅に伺い帰ってくるのを待っていたんです」
アイラがエルメルの町に来たのはちょうど二日前らしい。
私が帰らなかったらどうするつもりだったんだろう。
まあいい。
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