第十二話。なのはさん(28)の後悔
鉛色の空に迸る雷光、海に轟く雷鳴。
紫の色彩を放つ稲妻は、容赦なく私達へと降り注いでくる。だが、それに対して私が臆することはなかった。少しも怖いと思うこともなかった。まだまだ余裕があった。
だから、この時の私はきっと油断してたんだと思う。
「フェイトちゃん、絶対に私の傍からはな……っ!?」
「………………っ……」
「……あ、はは。この展開はちょっと予想外っ、だったかなぁ……」
じんわりと赤く染まっていく私の白いバリアジャケット。
腹部に突き刺さっている黒き大鎌を赤い雫がゆっくりと伝っていく。
そう、私は刺されたのだ。またフェイトちゃんに刺されてしまったのだ。
はは、流石にこれは予想外だと言わざるを得ない。
「……ごめんなさい、ごめんなさいっ」
顔を伏せたまま、私に謝ってくるフェイトちゃん。
……泣いているのだろう、きらりと光る涙が母なる海へと落ちていく。その身体は小刻みに震えていて、いつもよりも更に小さく見えた。そんなフェイトちゃんを暫く呆然と見詰めた後、私は思わず苦笑する。
こうも謝られちゃうと怒るに怒れない。まぁ、元々怒りの感情は全く湧いていなかったんだけどね。それにしても、痛みが凄いと頭の中がどんどん冷静になっていくのは何でなんだろう。まるで氷でも入れたみたいに、とても冷たくなってくる……本当に不思議な気分だっと、今はそんな事を考えてる場合じゃなかった。何かフェイトちゃんに言わなくちゃ……。
「大丈、夫だよ? 私、全然怒っ、てないもん。だから――――」
――――泣かないで。
そう私は言いたかったのだけど、結局、その言葉が口から発せられることはなかった。その理由は本当に簡単なことで。また頭の上から紫の雷が私へと落ちてきたからだ。
落雷を受けた瞬間、一瞬私の呼吸が止まった。
その後、全身に走る痺れと激痛。それらに耐えきれなかった私は崩れるように、ゆっくりと海へと落下していく。
だけど、身体の痛みで意識が薄れていく中、私は確かに見た。
親を見失ってしまった迷い子のように、私を見て泣きじゃくってる金色の女の子の姿を。
そして、彼女が泣いている声を。私は確かに聞いたんだ。
私の名前は高町 なのは。
あと一歩って所で、全でを台無しにされた哀れな少女Aです。
またフェイトちゃんに刺されるとか……もうね、普通に泣けてくる。別にトラウマってほどではないけど、流石に二度目は精神的にキツイよ。
「目が覚めると其処は、知らない医務室の中でした」
私はぼんやりと目を開けると、そう呟く。目覚めの気分はとても良好とは言えなかった。人生に置いて、低血圧なのはかなり損をしているような気がする。
主に目覚めのダルさ的な問題で……。
「なーんて、ね。空元気も出ないや……」
ふざけたようにおどけてみるものの、気分は一向に良くはならなかった。
身体に痛みは殆ど感じない。身体も大人から子供へと戻っているみたいだ。だけど、今の私はそんなことはどうでもいいと感じていた。私の脳裏に浮かぶのは、泣きながら震えていたフェイトちゃんの姿だけ。
また泣かせちゃったなぁ……そう考えるだけで私の気分は自ずとマイナス方面へと偏っていく。
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