第十七話。なのはさん(28)の休日
PT事件が解決して早一ヶ月の時が過ぎた。
穏やかな陽気の春も終わりを迎え、海鳴の地でもじとじとと湿った梅雨の季節が訪れている。そんな中、私はというと早朝からジャージ姿で見晴らしのいい高台の公園で訓練に勤しんでいた。勿論、周囲にバレないように簡易的な結界を張っている。
「次でラストだね。レイジングハート、いつものようにカウントをよろしく」
愛機に声を掛け、私は宙に空き缶を放り投げる。
缶の数は二つ。魔力弾の数は五つ。いつも訓練の最後にやる仕上げの様なものだ。
“97、98、99……”
「アクセル」
ある程度回数を重ねた後は、弾速を上げる。
缶と魔力弾が奏でる音のリズムが少しだけ速くなったが、まだまだこのくらいなら全然余裕がある。
“997、998、999……”
「アクセルっ」
またスピードを上げた。此処から先はちょっとだけ難易度が上がるので、気が抜けない。案の定、僅かに力加減を間違え、高度が上がり過ぎてしまった。でも、まだ許容範囲。弾速はまだ視認できる。もう少しいけそうだ。
“4997、4998、4999……”
「アクセルっ!」
桃色の影が嵐のように目標を屠っていく。
最早、光弾は視認できず、二つの缶だけが空を舞う。自然と私の額から汗が滲んできた。
“……9997、9998、9999、10000、FINISH!”
「っ、シュートっ!」
最後は五つを一つに集束させ、二つ同時に大きく弾く。
落下する缶は回転しながら弧を描いて、目標であるゴミ箱へと二つともダイレクトゴール。思わず安堵のため息が出た。うん、最後は上手く決められたね。
「ふぅ~。……レイジングハート、採点は?」
“76点です”
「えー、ちょっと厳しめ過ぎない?」
合格ラインは80点。つまり今日は不合格。厳しい愛機の採点に思わず、頬をむーとリスのように膨らます。ミスしたのは自覚しているけれど、もう少しくらい甘くつけてくれてもいいと思う。しかし、我が相棒は訓練に関してはとても厳しかった。
“昨日よりタイムも若干遅いです。ミスがなければ90点でした”
「むむむ、自覚しているだけに反論が出来ない。でも、何かレイジングハートがいぢわるな気がする……」
“いぢわるではありません、これは信頼です”
そう言われてしまうとぐぅの音も出なくなる。私なら出来るという期待の裏返しでもあるとわかるだけに余計に何も言うことが出来ない。私ははぁ、と軽く溜め息を吐くとゆっくり柔軟体操を始めた。鍛練前と鍛練後の柔軟はとても大事。これをサボると後で泣きを見ることになってしまうのだ。
二十代も半ばを過ぎるとね、色々大変なのですよ、うん。今は前よりも身体がポンコツだから念入りにしないとマジで地獄を見ることになるし……ぐすん。
「んんっ、ねぇレイジングハート、今日の朝ご飯は何か知ってる~?」
“詳しくは知りませんが桃子が昨日、鮭を冷蔵庫に入れていたので焼き魚ではないかと”
「ん~、そっか。なら、ちょっと急ぎ目に帰った方が良いかな。配膳の準備も手伝わないといけないし、ご飯より先に汗も流したいもんね」
“Yes, master”
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