第九話。なのはさん(28)の葛藤
今日はミっくんの家で初めてのお泊り。
付き合い始めて一ヶ月。遅いと言えば遅く、早いと言えば早かった。現在の私の心は大きな期待とか小さな不安とかが色々と混在していたりする。
まぁ、端的に言えば私は凄くドキドキしております。
「なのはさん。今日は本当に帰らなくて良いの?」
「もうっ。二人っきりの時はなのはって呼んでくれなきゃ、イヤだよ」
こんな時でも、私の事をさん付けで呼ぶ彼。まぁ、確かに七歳も年上だし、仕事上でも上司だから仕方がないのかもしれない。けど、やっぱり一人の女の子としては呼び捨てで呼んで欲しいと思ってしまう。
ちなみに二十八歳で女の子? という質問は受け付けておりません。私の心は何時だって乙女なのだから。
「あはは。そうだったね、ごめん。それじゃあ……なのは」
そんな私のささやかな願いを彼は、優しげな笑みを浮かべながら叶えてくれる。そして、私をそっと抱きしめるとゆっくりと顔を近づけてきた。
それに合わせて、私も静かに目を閉じる……。
ああ。これで私の長き夢見る少女の時代は、遂に終わりを迎える。
皆よりもちょっと遅くなってしまったけど、これから私は大人の階段を上っていくんだ。もう私は不幸なままのシンデレラではない。私だけの王子様を手に入れたのだから!
「……もう儂はお前を離さんぞっ!」
「ふぇ?」
彼と私が触れ合う寸前。いつもは耳に心地良いはずのミっくんの声が、何故かいかついおじさんの声に変わった。
うん、何かがおかしい。この仄かに香る加齢臭とか愛しのミっくんからはして来ないはずだ。それに大体、ミっくんは儂なんて言わないっ。
少し疑問を感じた私は慌てて目を開けてみる、すると其処には……。
「レ、レジアス中将ぉぉお!?」
何故か角刈りのいかつい親父がいました。ミっくんが親父に変わってました。
しかも、私の身体を完全にその太い腕で拘束して、そのヒゲ面を私に近づけて来る。というか、その荒れた薄い唇を私に突き出して来てるぅ!?
そんなおぞましい光景を間近で見た所為で、私の全身に鳥肌が走った。
「ちょっ、本気でやめてっ! 近づかないでっ!」
「んむぅ~~」
本気で焦りながら顔を精一杯ヒゲ面から引き離す。
そしてその間に何とか腕を外そうともがき、太い腕を連続でタップ&タップ。
だけどそんな些細な抵抗は全く届かず、無情にも私の唇はヒゲ親父に奪われ――――
「い、いやぁぁああ――――っ!」
私はがばっと布団から勢いよく起き上がる。
額 から嫌な汗がぽたりと落ちてきた。呼吸も荒く、心臓はドクドクと激しく鳴り響いている。ゆ、夢? 夢、なの? 夢なんだよね? お願い、夢だと言って!
混乱している頭でそう祈りつつ、軽く深呼吸を数回行う。窓から外を眺めれば辺りはまだ真っ暗だ。しかも私は自室のベットの上、隣には誰もいない。……ふぅ、良かった。本当に夢だったみたい。それにしても……。
「な、なんて悪夢なの……」
い、今のは色々と酷すぎると思う。幸せなミっくんとの時間をよりにもよって、あんなおぞましい時間に変えてしまうなんて……。何が酷いって、もう全部が酷すぎるよっ。
大体、あんな場面でレジアス中将とチェンジするとか本気でトラウマ確定だからっ。まさかあれなの? 実は私はオジコンだったりするの? 内なる属性の開花なの? 嶺上開花なの? 本当、何処のバカレッドだよ私は……。
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