ハーメルン
GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~
#17 - なお昏き夜から
絶唱を奏でた代償で重症を負った朱音は、リディアン音楽院高等科と隣接し、装者含めた特異災害対策機動部関係者の治療も請け負っている市が運営する《律唱市立市民総合病院》に緊急搬送された。
ICU―集中治療室内では、全身に包帯を巻かれ、口に呼吸器を付けられた朱音が、治療カプセルの中で床に着いていた。
「よろしくお願い致します」
ICUのある階の薄暗い院内の廊下では、いつものラフさを潜めてスーツを正している弦十郎と黒づくめなスーツのエージェントたちが担当医師の一人に頭を下げていた。
「エージェント各員は鎧の探索を続けてくれ、まだそう遠くは行っていない筈だ、どんな手がかりも見逃すな」
弦十郎は部下のエージェントたちに指示を飛ばし、彼らは素早く〝ネフシュタンの鎧の少女〟の探索任務に取り掛かるべくこの場を後にしていく。
経過を説明していた医師も治療室に戻り、廊下に残された弦十郎は、この階の一角にある休憩室の円形状のソファーに、心細く腰かけている響の不安が伸し掛かった後ろ姿を目にした。
「響君」
彼が呼びかけると、響は俯いていた顔をこちらに向ける。
「朱音ちゃん………大丈夫ですよね?」
弦十郎は厳つく雄々しい瞳を曇らせる。
ノイズが複数の地点に同時発生した状況だったとは言え、まだアームドギアを手にできていない彼女を実戦に出し、あまつさえ血まみれとなった級友を見せられるような事態に遭わせてしまった。
この子だけではない………翼にも。
現場に駆けつけた時の姪の姿は、二年前のあの時と………よく似ていた。
まるで魂が抜け出てしまった、体だけは生命活動を続けている〝殻″となってしまったと思わせてしまう放心とした姿。
娘を突き放した〝兄貴〟に代わって〝父親〟の役を担っていたつもりだったが、自分も色々至らないと、自嘲する。
〝いつまで経っても………慣れぬものだな〟
何度もとなく味わう、少女を戦場に送り出し、その多感な年頃の心を傷つけさせてしまうことへの〝罪悪感〟……しかし、一向にこの痛みに慣れそうにない。
いや……たとえ〝偽善〟だと突かれ、詰られたとしても、この胸の疼きは絶対に慣れてはいけないものだと弦十郎は噛みしめていた。
「一命はとりとめたが………まだ予断は許されない、とのことだ」
治療に当たるチームスタッフの主任医から聞かされた容体の状況を、弦十郎は打ち明ける。
それを聞いた響の瞳に指す影は、より大きくなった。
「ただな――」
「え?」
「あれ程の深手を負ったと言うのに、朱音君の心拍数は、一定の数値を維持し続けているだそうだ」
そのことを説明していた主任医は、口調こそ冷静であったものの、「こんな経験は初めてですよ」と、大層驚いていた様子だった。
弦十郎も、共通の趣味で通じ合う歳の離れた友である朱音の〝生命力〟に驚かされている。
「彼女が諦めちゃいないってことだ、生きることをな」
「あきらめちゃ……いない」
オウム返しをした響に、弦十郎は屈強なその手で彼女の頭をそっと撫で、少しでも不安を和らげようと微笑んだ。
「そうだ、翼のことも心配だろうが、後は俺たちに任せて、今夜はもうゆっくり休むといい」
「でも……」
「せっかくの友達との大事な〝約束〟を破らせてしまったんだ、それくらいの施しはさせてくれ」
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