ハーメルン
GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~
#17 - なお昏き夜から


 一緒に流れ星を見ると言う未来との約束のことは、響に出動要請の連絡をした時点での弦十郎は知らなかった。
 しかし、出動要請の連絡を入れた時の響の声音から、彼は〝直感〟で今日の彼女には大事な約束があったと悟り、その後朱音との通信の際に、響は未来とで今夜に流星群を見る約束をしていたと知ったのだ。

「ど、どうしてそれを……」
「元警察官の〝勘〟さ」

〝身内に目を光らせる、公安警察だったがな〟

 と、内心弦十郎は呟き、同時に数時間前の朱音からの言葉を反芻する。

〝司令、響も戦っていることは、未来に話さないでもらえますか、まだ……〟





 その頃、翼は叔父弦十郎の屋敷での私室の片隅で、一人小山座りをしていた。
 明日も歌手活動のスケジュールが詰まっていると言うのに、寝間着に着替えもせず、制服姿のまま。
 首から上を壁にもたれ掛け、顔は茫洋として、口は半開き、先程まで張り詰めていた両の目は、ほとんど微動だにせず開かれたまま焦点がどこにも合わない、発する生気もひどく希薄だ。
 壁が無ければ、そのまま倒れ込んでしまっている。
 自室に着くまでの足取りは、半ば浮浪者も同然にふらついてさえいた。

 虚ろげな翼の脳は、絶唱の〝詩〟と〝調べ〟が何度も何度も、再生させられていた。

 奏と、そして朱音、二人の装者の歌声で………二人の歌うその勇姿も。

「ふっ……」

 ふと口元から、乾いていて痛々しい自虐な笑みが浮かんだ。




 何をやっていたのだろうか………さっきまでの自分(わたし)。
 何が……〝この残酷はむしろ心地いい〟だ。
 その激情に身を任せて、酔いに酔いしれていた自分の醜態を思い出すと、滑稽にさえ思えてくる。
 あのネフシュタンの少女………戦っていたあの時、何を言っていたか?
 途中で〝影縫い〟の罠に気づき、途切れてしまったが、その先も含めるなら、こう言いたかったのだろう。

〝将来有望な後輩がいんだ、これ以上恥晒すくれえなら潔く身を引くんだな〟

 と―――吐き捨てるように口にしたあの少女の言う通り。
 奏と、草凪朱音は言うに及ばず。
 ガングニールの装者を継いでしまった未熟者である立花響にも、人のことは言えない。

 やはり私は、どこまで行っても………〝出来損ないの剣〟でしかないのだな。
 結局、私は……何も為し得られなかった。
 満足に〝使命〟を全うできない。
 誰一人の命も、守れない。
 潔くこの命を果てることすらできぬまま、醜悪な生き恥を晒してばかり。

 それどころか、こんな自分より遥かに防人――守り手に相応しき彼女に、私が身に受ける筈だった絶唱の代償――バックファイアを背負わせ、生死の境を彷徨わせている。

 私は戦いしか知らない、戦うことしかできない……できなかったのに………戦士としての、防人としての存在意義すら、自らかなぐり捨ててしまった。 

 何の為に……私は……戦っていた?

 何の為に………歌っていた?

 なんだったっただろう………それすらもう、思い出せない。

 空っぽだ………私は――二度と流さぬと決めていた涙すら、流れてこない。


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