ハーメルン
【完結】ヤンデレの女の子に死ぬほど愛されて眠れない兄になって死にたくなってきた
第弐病・アイゾウ

 綾小路咲夜が転校してきた。
 その事実が、今後俺の―――俺達の学生生活に、どれだけの影響を与える事になるのか、正直な所まだハッキリ予想がついていない。 だが、前期に綾小路の本家筋……つまり咲夜の父方の息が掛かった人間を、園子と園芸部の為に悠と一緒に学園から追放させた事が原因にあるだろう事は、簡単に理解できた。 やり過ぎたとは思っていないし、間違った行動だったとも……思いたくはない。
 とにかく、現状俺は綾小路咲夜について、悠と互いの親が対立している事と、昨日一緒に街を回った時の印象くらいしか情報が無い。 昨日の言動や先程の始業式で全校生徒を前にした時の高飛車を飛び越えた傲慢ちきな物言いから、既に性格は把握できているが、だからと言ってそれで何もかもが予測できるのなら、俺はエスパーかなにかの類いだろう。
 とにかく、悠としっかり話をする必要がある。


 ―――の、だけれども。

「綾瀬、悠は何処行った?」

 うちの学園は始業式が終わったらその日はもうおしまい。 部活も委員会も一切の活動が無く、野球部を筆頭に運動部の幾つかが許可を得て活動するだけで、実質夏休みのオフタイムのような物になっている。
 園芸部もその例に倣い、今日はこのまま各自解散の流れになるのだと、先程廊下から俺を呼んだ園子に言われた。
 だから、これから悠と話をしようと思っていたのに、園子と話していた僅かな間に、いつの間にか消えていた。 教室に残っていた綾瀬なら悠の姿を見ていたろうと、声をかけたのだが、

「…………」

 綾瀬の方はと言うと、普段はあまり目にしない険しい表情で、何か思索しているようだった。 当然、俺の言葉なんて耳に入っているわけも無く。
 ただ、『声をかけられた』事には気付いたのか、パッと弾く様に俺の方へと顔を向けて、

「あ、ごめんなさい……。 ちょっとボーッとしてて聞いてなかった。 夏休みボケかな……はは」

 と、誤摩化す様に苦笑いを浮かべた。
 何を考えていたのか、追求する事は簡単だ。 でも、今はあえてそれをしない事にした。 悠の事を早く聞きたいのもあるが、それ以上に、綾瀬の誤摩化したいという気持ちを尊重しておきたい。
 綾瀬は、俺が理由で思い悩む時は割とはっきりと、すぐ問いつめて来る性格だ。 その綾瀬が誤摩化すのだから、きっと理由は俺以外にあって、しかも余り話したくない物なんだろう。
 なら、今は良い。 そのうち目に余るようなら、その時に無理にでも聞き出すだけだ。

「悠がいないんだけど。 教室出る所見た?」
「綾小路君? ごめん、私も見てないかな……」
「そっか。 家の用事で早く帰ったのかな。 綾小路咲夜が転校してきたし……」
「確か、今日転校してきたあの子と綾小路君の家って、跡目争いしてるんだよね? 難しい話は良く分からないけど、今朝の彼の様子から見ても、急な出来事だったんじゃないかなあ」
「やっぱそう思う? 今後どうなるかについても話しておきたかったんだけど……居ないんじゃあ仕方ないよな。 俺らも帰るか」

 明日また、改めて話をすれば良い。 流石にそれくらいの猶予は普通にあるだろうと思い直し、帰る事に決めた。 だけど、

「ごめんね……私も一緒に帰りたいんだけど、今日これからちょっと用事が入ってて……。 悪いけど、貴方だけ先に帰ってて」
「用事? なんの―――いや、分かった。 気をつけてな」

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