ハーメルン
えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?
第十六話 友達
「いいかな、ラヴィニアちゃん。君は神滅具を持ち、さらに魔法使いとしても才能がある。だからこそ、周りをもっとよく見て、その時々に応じた対応が大切なんだよねぇ」
「はいです…」
「ラヴィニアちゃんが守ろうとした子が、逆に危険な目にあってしまったことへの悔しさと怒り、そして申し訳なさは僕にもわかるよ。それでも、そんなに広くない路地裏で二回も、しかも君の魔法だけでも対処できるレベルにも使って、周辺を所構わず氷漬けにしちゃうのは駄目じゃないのかなぁ?」
「おっしゃる通りです……」
あの、そろそろラヴィニアさんが涙目でぷるぷるし出しているから、やめてあげてくれませんか。見ているこっちの方が、罪悪感で悲しい気持ちになってきます。だけど、説教している内容は間違っておらず、さらに彼女に説教をしているお方がお方なだけに、俺は力なく項垂れるしかない。すまない、恩人のラヴィニアさん。俺では力になれないようだ。
「それで、君はもう大丈夫そうだねぇ。魔法で回復させたとはいえ、若いって、やっぱりすごい力だと僕は思うよ」
「あっ、えっと、はい! 手当して下さり、あと助けていただいて、どうもありがとうございました!」
「ハハっ、そんなに畏まらなくていいさ。子どもは元気なのが一番だからねぇ。それに、今回はうちの事情に君を巻き込ませてしまったかたちだ。むしろ、こちらが謝罪をしなければならないね」
「いえ、その……、お仕事中だったラヴィニアさんに最初に声をかけたのは俺で、彼女は一生懸命に俺を守ろうとしてくれました。だから、彼女にも協会の方にも恨みはありません。全ての原因はあのはぐれ魔法使いの人たちで、俺は俺で、しっかり一発入れられたのでもう気にしていません」
これは俺の本音だ。確かに彼らがもっとしっかりはぐれ魔法使いたちへの対処をしてくれていたら、という思いはない訳じゃないが、あんなのはもう事故の領域だ。運が本当になかったとしか言いようがない。何より、最後の最後で天は俺に味方した。悪運が強かっただけなのかもしれないけど。
それに、あの戦闘は確かに巻き込まれただけだったけど、それだって裏の世界ならよくあることで片付けられてしまうものだったと思う。つまり、俺自身の見通しの甘さも原因の一つであった。俺は本当に情けないぐらいに、足りないものが多すぎる。それを今回のことで、痛いほど俺は理解できたのだ。
それに、俺が協会を糾弾すれば、ラヴィニアさんが悲しむ。彼女は俺の命の恩人で、何よりも可愛い女の子だ。少なくとも、俺が彼女に最初に出会った時のような、ぽわぽわしたような笑顔が絶対に似合う。それを曇らせたくない、って男としての意地ぐらい張りたいのだ。
「うーん、それはこちらとしてはありがたいけど、それはそれでこちらも申し訳がないね…。それじゃあ、君にはここ『灰色の魔術師』へのパスをあげようか。あと、何か困ったことがあったら、いつでも来るといい。僕のできる範囲でなら、叶えてあげよう」
「ちょっ、そんな大層なものもらえませんよ! それにできる範囲って、協会の理事長にお願いするなんて、恐れ多いというか、申し訳ないといいますか…」
「うんうん、ラヴィニアちゃんが君をいい子だと言っていたのがよくわかるよ。僕はあれこれ要求されるのは嫌いだけど、嫌いなやつに向けてドラゴンを嗾けてあげるぐらいのお願いなら聞いてあげるさ」
ハハハハ、と笑いながら、恐ろしいことをさらっと告げてくるお方です。彼なりのジョークなんだろうけど、彼の眷属悪魔を知っている手前、半笑いしかできない。やろうと思えば、本当にできそうなところが普通に怖いです。
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