ハーメルン
えっ、シスコン魔王様とスイッチ姫みたいな力ですか?
第七話 笑顔




 俺の記憶的に一般的なはぐれ悪魔って、確か原作でも二次小説でも噛ませ犬のような扱いであったと思う。主人公や仲間の力量を測るためや、力を見せつけるための見せ場のため、または襲われているヒロインを助ける場面とかで。実際、彼らはこの世界のレベル的に言えば、脅威という存在ではない。これよりも化け物クラスなんて山ほどいるのが、この『ハイスクールD×D』という世界なのだ。本気で自信無くなってきた。

 一応強いはぐれ悪魔はいるが、それは原作の登場人物であり、さらに二次小説でも大人気であった黒歌(くろか)さんだ。彼女はSSランクという強者で、仙術という不思議な力が使える、しかも猫耳尻尾のすごい美女である。強さに関しては、なんでもSを増やせばいいってもんじゃないだろ、とどうでもいいことを思ったが、そこは無視する。

 原作では強いらしいことしかわからなかった。ただこれはわかる。彼女は今回俺が出会ったはぐれ悪魔とは、次元が違うほど強いのだろうということが。あのはぐれ悪魔はきっとこの世界の裏の実力者には、取るに足らない相手だっただろう。神器だけの俺や表の人間にとっては、死神のような存在であったとしても。

「はぐれ悪魔、悪魔への転生、三大勢力……」
「あんまり詳しいことは言えないけど、それが恵さんの巻き込まれた原因です。本来、表……一般人が裏に巻き込まれない様に三大勢力が見張っているんだけど、今回のような犯罪者や人間を餌にする奴らが網を掻い潜ってくることがあります。それに運悪く、狙われてしまう表の人がいるのも事実なんです」
「……君は、その三大勢力の人なの?」
「俺は、どこにも所属していない。フリーっていうか、ぶっちゃけ神器を持っているだけの一般人です。色々知っているだけの。神器はさっき話したと思うけど、不思議な力を持った神様が作った道具、って認識でいいよ」
「一般人…。それじゃあ、どうして私を助けてくれたの?」
「俺は、あなたを助けたって堂々と言えるほど、何かをした訳じゃないです。恵さんが生きているのは、あなたが諦めずに頑張ったからだ。俺はただ見捨てるのが嫌だったから、せめて何かできないかって無我夢中だっただけだから」

 この世界の裏側についての簡単な情報だけだが、俺は全て彼女に話した。これからをどうするのかにしても、何も知らないままじゃ次の行動に移ることもできないから。恵さんは、俺が家に来たときにはある程度落ち着いていて、俺の話も最後まで静かに聞いてくれた。

 これは彼女のためであったが、俺自身も転生してからずっと溜まり続けていたものの一部を吐きだせたことに、胸が少し軽くなった。俺はこの四年間、誰にも裏の世界のことを話すことができなかった。相手は被害者であったが、この世界の恐怖をお互いに分かち合うことができたのだ。お互いに「怖い怖い」と言い合うだけだけど、共感してくれる相手がいることが、こんなにも嬉しいと思ってしまうなんて。本当に弱いな、……俺って。

「ううん、例えそうだったとしても、あなたがいなかったら私はあの化け物に殺されていたわ。だから、助けてくれてありがとう。本当にありがとう……」
「……どういたしまして。俺こそ、生きることを諦めずにいてくれて、ありがとうございます」
「ふふっ、何そのお礼」

 俺からのお礼の言葉に、一瞬きょとんと目を瞬かせた恵さんは、おかしそうに笑ってくれた。彼女の心身の傷は、まだ深く残っている。それでも、こうして笑顔を見せてくれたことに、胸に安堵が広がった。情けないばかりの俺だけど、諦めなくてよかった。彼女が生きてくれていてよかった。心から、そう思えた。

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