ハーメルン
モモンガ様ひとり旅《完結》
思想/対立

 

 リ・エスティーゼ王国はアゼルリシア山脈の西側を支配する、人間種の大国である。
 封建国家であり、政治は王と貴族の会議で行われていたが――現在は、王派閥と貴族派閥に分かれて対立しており、どちらもが互いの足を引っ張って、スレイン法国やバハルス帝国のように統治は上手くいっていない。
 更に、年に一度帝国が畑の実りの時期に戦争を仕掛け、徐々に国力を削られていっていた。
 だが、その現状を真に理解している貴族達は少ない。

 ……大貴族の一人は裏切り、帝国や法国に金銭を要求する代わりに内部の情報を流している。他の貴族達は王派閥と貴族派閥に分かれて、よりどちらが権力を握るか、美味しい蜜を吸えるかと権力闘争に明け暮れている。後継者として名を挙げられる二人の王子は、王の後継を狙って互いに足を引っ張り合う。
 そして、その隙を縫うように、徐々に内部崩壊させるように帝国が毎年国力を削ってくる。

 破綻は見えていた。王国の現状はほぼ詰んでいる。もはや、どうしようもないほどに。
 しかしそれでも――彼らは互いの身を喰らい合う事を止めないのだ。

 それこそが、まさに人間の欲望。法国が絶望と軽蔑を宿して自分達を見ている事に、彼らは全く気づいていない。

 人間の住まう土地など、ほんの一部だ。亜人種も、異形種も、その気になれば人の世界など容易く崩壊させるだろう。
 竜王国が、ビーストマンの侵略を受けて民衆がただの食事になっているように。
 かつて八欲王達と戦争をして、結局生き残った竜の王達がいるように。

 人間は弱い。だから協力して生き残らなければならない。同じ種族同士で争い合う暇など、自分達には全く無いのだ。

 それでも――――人間は争いを続けている。互いの足を引っ張っている。
 王国は、今もその先に見える破滅に気づかずに、互いを喰い合っていた。







「――それで、村のことだけれど……ねぇ、ラキュース。本当にイビルアイ以上の魔法詠唱者(マジック・キャスター)に遭遇したの?」

 自らの仕える主人――王女ラナーの言葉に、クライムは表情を更に引き締めた。

 ここは王女の私室とも言うべき場所であり、現在『蒼の薔薇』のリーダーであり貴族のラキュースと、仲間のティナが訪れていた。彼女達は先日、王国の裏社会を牛耳る『八本指』の麻薬部門……その麻薬の原料である植物を育てている三つの村を壊滅させるために、ラナーに頼まれ秘密裏に動いていたのだ。そしてそこから指令書らしきものが見つかったので、それを含めて話し合っていたのだが……ラナーは最後に、そう不安そうに訊ねた。

 クライムには、ラナーが不安になる気持ちも分かった。自分だって不安になる。あのアダマンタイト級冒険者のイビルアイより強い魔法詠唱者(マジック・キャスター)の登場に。

 その魔法詠唱者(マジック・キャスター)はどうやら通りすがりだと言っていたらしく、実際通りすがりなのだろうと思われている。何故なら、イビルアイに対して敵意を持っておらず、むしろ自分達の代わりに村の畑を焼いてもらった節さえあったからだ。焼き損ねた村を焼こうと再び訪れた時、彼女達が見たのは、ほとんど壊滅状態の村と、怯える村人達だったと言う。

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