ハーメルン
モモンガ様ひとり旅《完結》
あるべどのぼうけん

 

 ――広々とした玉座の間。そこに女のすすり泣きがずっと響いている。

 ここはギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の本拠地、栄光あるナザリック地下大墳墓。その最下層だ。支配者が座るためのこの世でもっとも高貴な玉座と、至高の四十一人のギルドサインが掲げられており、最奥にはとあるワールドアイテムが設置されている。

 そんな場所に似つかわしくない、女のすすり泣きがずっと響いていた。――いや、それともむしろ相応しいのか。
 至高の四十一人は全て去り、最後の慈悲深き王もまた去った。ならば墳墓らしく、女の情念が籠められたすすり泣きこそ、この玉座の間から奏でる音色として相応しいのかもしれない。

「…………」

 カツリ、と高く鳴る軍靴の音。玉座の間へと入るための扉の前に立った男は、女の情念籠もるすすり泣きが聞こえてくる事に首を傾げた。しかしこのまま突っ立っているわけにもいかず、帽子と襟元を整えるとその扉に手をかけようとする。

 ――ぎぃ。

 固く閉ざされていた巨大な扉がひとりでに開いた。誰かが立つと強制的に開くようになっていたのか、それとも『指輪』を持つ者の意思に反応して開くようなギミックでもあったのか。――この墳墓の絶対支配者がいない今は、誰にも分からない。

 ――カツン、カツン。

 扉が開き、男の視界に荘厳な玉座が目に入る。それに優雅に敬礼をすると、男は羽織っている軍服のコートを翻し玉座の間に向かって歩き出した。

「…………」

 響く軍靴の音。しかし玉座の間に響く女のすすり泣きはやまない。男は周囲を観察し――至高の四十一人のギルドサインを象った旗の内、自らの創造主の旗が無い事に気がつくと、すすり泣きの主へと視線をやった。

「…………」

 男の視線の先には、白いドレスに黒い翼を持った女が玉座に縋りつくように蹲っている。その艶めかしい肢体を男の創造主の旗が覆っており、男は少し不快な気分に襲われた。

 ――カツン、カツン。

 男は足を進める。女は男に気づいていないのか、それともあるいは意図的に無視しているのか。女が男を見る気配は無い。

 ――カツン、カツン。カツン。

 男が女へと近寄る。男は玉座の前の階段で一度止まると帽子を取り、胸に手をあてて跪いた。そして深く頭を下げる。十分に頭を下げた後立ち上がり、帽子を頭に被せ――女へと口を開いた。

「守護者統括殿」

「――――」

 男の言葉に、女のすすり泣きが止まる。痛いくらいの静寂が代わりに玉座の間に響き――女はゆっくりと顔を上げて男を見た。その女の表情には驚愕が張り付いている。

 何故なら、女はこのナザリック地下大墳墓において統括する者としての地位を至高の四十一人に与えられている。言うなれば、女は創造主達を除いてこのナザリック地下大墳墓にてもっとも地位高き者だ。その女が知らぬシモベがいるなぞ、あり得るはずがない。
 だと言うのに、女は――この、目の前に現れた男の声を、全く知らなかったのである。
 いや、声だけではない。この男の見目さえ、女は知らなかった。記憶の中に、全く男の情報が無い。

 だが、それでもこの見知らぬ男がナザリック地下大墳墓に所属するシモベである事は疑いようが無かった。自分達と同じく、男はナザリック地下大墳墓に所属する者特有のオーラを発している。それも女と同じ――至高の四十一人が手掛け創造した者特有のオーラを。

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