身に覚えがありません
――緑がほとんどなく荒涼とした、赤茶けた大地。昼夜関係なく存在し、漂う薄霧。数百年前の建築物である崩れ落ちた尖塔が墓標のように幾つも突き出しており、その何一つとて元の形を留めているものは無い。
建物は崩壊し、周囲に瓦礫となって砕けて散らばっている。それは時間の風化によってそうなったのではなく、大抵はこの地で行われた様々なモンスター達の争いが原因である。
ここは、アンデッド達の蠢くところ。彼らの反応を覆い隠すように存在する霧からは何故かアンデッド反応があり、奇襲を受けて命を落とした冒険者は数知れない。
そう、そこは血染められた死の大地。
カッツェ平野と呼ばれる、人間種の誰もが忌避する呪われた土地である。
◆
「最近依頼も無いし、そろそろカッツェ平野のアンデッド退治をしようと思ってるんだが、お前らどうだ?」
バハルス帝国のミスリル級冒険者に匹敵するワーカーチーム、『フォーサイト』のリーダーである軽装戦士のヘッケランは、そう言って同じチームの仲間達を見回した。
カッツェ平野のアンデッド退治は帝国では国家事業であり、無限と言っていいほど湧き出るアンデッド達の数から、定期的に数を減らすために年中無休でその仕事はある。アンデッドはあまり放置していると、生と死のバランスが崩れて強力なアンデッドが誕生するようになるためだ。
そのため、依頼が無く財布が心許無くなってきた冒険者やワーカーにとっては金の成る木のような扱いを受けている。
……とは言っても、極稀に骨の竜のような恐ろしく強力なアンデッドが出現する事もあるので、命を落とす人間も少なくないのだが。
「そうですね……。そろそろ新調したいアイテムもありますし、懐が寂しくなってきたところです」
神官戦士のロバーデイクが顎をさすって頷く。そうは言うが、彼の懐が寂しいのは自分の報酬を孤児院に寄付したりなどして、あまり自分の手元に残らないせいだ。装備品などは当然手を抜いていないが、しかし贅沢をする姿を見た事は仲間内でも一切無い。
「賛成。最近、矢とかアイテム補充したから、私もちょっとヤバイ」
弓兵のイミーナは苦々しい表情で頷いた。カッツェ平野のアンデッド退治は金になるが、同時に装備の消耗が激しくもある。アンデッドは貫通攻撃や斬撃に対する耐性を持っている者が多く、有効な攻撃は打撃系であるため攻撃手段が弓矢のイミーナは矢の刃先を潰さなくては有効打を与えられない。
しかし、そうして刃先を潰した矢はアンデッド以外に対してはあまり役には立たないので、別々に用意し常備しておかなくてはならないのだ。
「私も問題無い」
若くして第三位階まで使いこなす魔法詠唱者のアルシェも抑揚を感じさせない口調で頷く。彼女は魔法詠唱者のため、そこまで装備を摩耗させる事は無いのだが、今までほとんど装備品を新調した事が無い。だが、基本的にどんな依頼でも受けようとする気持ちがある。しかし贅沢をしているようにも見えず、『フォーサイト』としては少しばかり不思議に思っているところがあるのも事実だ。
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