ハーメルン
ナザリックへと消えた英雄のお話
公都

 公国最大の都市である公都は、周辺村落と合わせて人口三十万を越える大城郭都市である。公国の総人口がおよそ三百万とされているため、この一帯に国民の約十分の一が居住している訳だ。

 規模的にはリ・エスティーゼ王国やバハルス帝国の首都に及ばずともその賑わいは相当な物があり、特にここ数年は経済成長のお蔭か、居住する多くの人々の顔にも活気が見て取れる。
 特に大通りともなれば早朝でも道行く馬車やごったがえす人、人、人の波で真っ直ぐ歩くのにもコツがいる有様だ。近々大規模な区画整理が為されるとの発表もあり、〈コンティニュアル・ライト/永続光〉の掛かった魔光灯を主要な道に設置する計画が進んでいたりもするらしい。

 そんな活気あふれる早朝の公都に一人の少年がいた。

 あっちにふらふらこっちにふらふら、高い建物を見上げては『うわぁ!』立派な馬車が通るたびに『おお……』と感嘆の声を挙げるその子供は、絵に描いた様なおのぼりさんであった。詩を諳んじる吟遊詩人の声に耳を傾けては立ち止まって聞き入り、大道芸人の披露する軽業や手品に拍手を送る。見るもの全てが物珍しいとばかりに、あらゆるものに興味を示しては引き寄せられていた。

 三つ編みにした白金の長髪を尻尾の如く揺らしながら軽やかに歩いて行くその少年を良く見れば、シャツは貴金属の輝きを帯び、衣服の所々に鈍色の金属装甲が当てられていて、身を飾る装飾品の数々がマジックアイテムである事に気付けたかもしれない。
 齢十代半ばにも届かなさそうな少女の如き容貌をした少年の名は──イヨ・シノン。本来の名を篠田伊代と云う、十六歳のユグドラシルプレイヤーであった。

 思いっきり寄り道を繰り返してはいるが、彼の目的地は冒険者組合である。猫を追って横道に入ったりはしても、動物的感覚が優れているお蔭か、迷ったりはしない。猫を見失った段階で来た道とは違う細道を通って元の大通りまで帰還し、またふらふらと蛇行しながら進んでゆく。

 途中で空腹を覚えたのか、露店で串焼きなどを買って小腹を満たし──お代は金貨三枚等と云う露店の親父の冗談を真に受けて本当に払い、絶句した親父から説教を受けていた──イヨはとうとう昼頃になって、公都の冒険者組合まで辿り着いた。

 冒険者組合は街の中心から東に外れた位置にあり、貴族街に市民街、商人や職人たちの拠点が軒を連ねる地所など、どの地区からでもアクセスが良い場所に建っていた。
 何気に大公のおわす公城も近く、ちょっと離れて視界を広げれば一緒に眼に入った。公城は他の建物よりも高所にある為、下半分が冒険者組合の建物で遮られて天空城の様に見える。

 『あそこに偉い人──大公様だっけ? がいるんだよね』などと思ったイヨは、校長室を遠巻きに眺める小学生の様な気分になる。気にはなるが何となく怖くて近づきがたい、そんな感情だ。

 暫しして、イヨは冒険者組合に踏み入った。両開きの戸を静かに開け、閉める時も音を立てない様に静かに閉める。そうして前を向くと、多くの武装した男女──パッと見た所、受付嬢らしき職員たちを入れても、男女比は七対三ほどだ──の視線がイヨに殺到した。
 殺到した視線は僅かな時間で逸れたが、未だ多くの人間が自分に意識を向けているのをイヨは感じた。同時に、子供だから悪目立ちしているんだろうな、と納得する。

 イヨの他に十代と思しき人物は殆どいないし、ほんの僅かな例外も皆大人びた体躯や顔つきをしている。十代とは言っても十九か十八歳ほどの者達だろう。確か殆どの国では十六歳で成人として扱われているらしいから、そう考えると立派な大人なのだ。

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