公都:早過ぎる転機
「お前みたいな奴がうちのチームにいて良い訳がねぇだろ!」
「ええー!?」
朝の勧誘を受けてから僅か四時間後の事である。イヨはバルドル・ガントレードがリーダーを務めるチーム、【ヒストリア】から満場一致の脱退要請を受けていた。
「そうだ! 鉄プレートのチームにいて良い訳がねぇ!」
「お前にはもっとお似合いの場所があるだろ!」
一時間ほど前からどんどん集まってきた他の冒険者たちまでもが大きく声を張り上げる。正義はこちらに在りとばかりに自分の主張を咆え猛る。イヨの意見など誰も聞いてくれない。
「なんで……なんで皆さんそんな事を言うんですか……!」
「なんでも何もあるか! 常識で考えろ、この世間知らずのおこちゃまが!」
口を開けば怒鳴られる。頭ごなしに高圧的に、だ。確かにイヨは世間知らずのお子様である。そもそも三週間ほど前にこの世界に来たばかりなのだから常識も何も持ち合わせていない。今この宿の裏の空き地にいる面子の中でも際立って幼い十六歳の子供でしかない。でも、だからって──
「お前みてぇに強い奴が! 銅や鉄程度のランクに収まってて良い訳がねぇ!」
「組合に直訴しようぜ、考えてることはあっちだって同じだろ!?」
「ああ、特例措置を要求すべきだ!」
「二十年ぶりに公国にアダマンタイト級が誕生するかどうかの瀬戸際なんだ、細かい規則なんて脇に避けておけってんだ!」
イヨ以外の全員が言ってる様に、組合に直訴して飛び級を認めさせるなんて事、イヨには賛成出来る筈も無かった。
「そ、そんな、ルールを捻じ曲げるなんて──」
「じゃかぁしい! イヨは黙ってろ!」
「菓子でも食って待ってろ! おい、誰か甘いもん買ってこい!」
「僕の話なのに僕が喋っちゃ駄目なんですか!?」
「はーいイヨちゃーん? おじさんたちは難しい大人のお話があるんだって! イヨちゃんはお姉さんたちと良い子でお喋りして待ってましょうね~」
「僕そこまで子供じゃないです、あれは僕の話じゃ──やぁ! 何処触ってるんですか!?」
即座に女性冒険者数名がイヨを取り囲んで隔離、じりじりと体を使って建物側に押し込める。イヨが包囲を突破しようとするなら相手の身体に触れねばならないのを逆手に取り、移動を禁じる。更に色恋やらリウル関連の下世話な話で気を逸らすという念の入れようである。
邪魔なお子様を遠のけさせたことで、集った面々は現実的な方策を勘案し始めた。
「でもよ、実際特例ってのはイケる話なのか? 確かにイヨは飛び抜けて強ぇけどよ、実績の無い十六のガキだぞ。中身と外見はもっと子供だし」
「そこは色々と落としどころってもんがあるだろ。いきなりアダマンタイト級ってのは流石に荒唐無稽だ。理想はミスリルかオリハルコンのチームに加入させる事だな。実力は既にあるんだから、オツムや実績の方はこれから積み上げて行きゃあいい」
「イヨ一人でアダマンタイトを張ってくのは無理だからな。犬か猫でも追っかけて崖から落っこちるのがオチだ。誰か近しい実力の保護者を付けねぇといけねぇよ」
本人に聞こえていれば抗議が飛んだだろう失礼千万な評価である。流石にイヨでも崖に落ちる前に気付いて止まる事くらいは出来る。犬と猫は大好きなので時と場合によっては追いかけてしまうかもしれないが。
「だったら狙いは【スパエラ】だな。ついこの間前衛と後衛が一人ずつ抜けたばっかりだ。今日辺りに組合長との会談が入ってる筈だし、メンバー募集の掲示が昼頃には出るだろう」
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