公都:早過ぎる転機
「リウルとは既に知り合いなんだし、やっぱりそこらが妥当な線か……」
喧々諤々と交わされる議論。響くイヨの悲鳴。女性冒険者の黄色い声。
冒険者組合御用達の宿『下っ端の巣』の裏の空き地は、何時になく賑やかであった。
●
イヨがバルドル率いる冒険者チーム【ヒストリア】への加入を決定したあと、彼は直ぐに三人のチームメンバーと引き合わされた。バルドルとイヨを含めて五人のチームになる訳だ。
三人のチームメイトはイヨの幼さと性別と実年齢に一通り驚愕した後、暖かくイヨを受け入れてくれた。少々体格的精神的に幼過ぎるきらいはあるが、信頼するリーダーが選んだ人間なら大丈夫だろうと言ってくれたのだ。
「これからは対等の仲間だ、敬語はいらないからな」
腕を組んで笑うモンク。褐色の肌をした巨漢、シバド・ブル。
「アタシにもイヨ位の弟妹がいたんだよ~! アタシの事、お姉ちゃんって呼んでくれてもいいよ!」
飛び跳ねてはしゃぐレンジャー。紅一点にしてチームの妹分、赤毛のパン。名字は名乗っていないらしい。
「誰だって最初は初心者さ。分からない事が有ったら言ってくれ、何でも教えるよ」
木の杖に寄りかかる様にして立つウィザード。痩身長髪のワンド・スクロール。
「冒険者ってのは馴れ合い所帯じゃねぇ。だが、同時に命を預け合う存在でもあるんだ。同じチームの仲間になったからには、俺達が責任を持ってお前を強くしてやるよ」
そして帯鎧と長剣を装備した戦士。リーダーのバルドル・ガントレード。揃って男前な笑みを浮かべる面々を前にして、イヨは明るい前途を強く感じた。良い人たちと出会う事が出来たと、幸せに思ったのだ。
「これから、宜しくお願いします!」
元気に礼をする拳士にして神官。金髪三つ編みの少女めいた少年、イヨ・シノン。
新たな仲間を迎えた鉄クラス冒険者チーム【ヒストリア】は新たなる歴史を刻み始める──!
──刻み始めたのだが……。
「うわー! イヨすごいね、小っちゃいのに体力あるじゃん!」
「えへへ、僕、運動には自信があるんだよ!」
「立派なもんだ。そのなりで冒険者になろうってだけはあるな」
【ヒストリア】一行は、今日一日を新メンバーであるイヨの能力と知識の把握、そしてパーティー内で親睦を深めるのに使おうと決めていた。
冒険者の仕事においてまず基本となるのが体力である。たとえ魔法詠唱者であろうとも、重い荷物と装備の重量に耐えて長距離の移動をしなければならないのだ。これは戦闘やら知識やら以前の段階の話である。歩くだけで疲れていては戦闘など熟せない。一回や二回の戦闘で疲れ切ってしまっては次の戦闘や移動に耐えられないのだ。組合に急報を伝える際や敵わないモンスターから逃げる時など、休憩なしで長く駆ける体力はあった方が良い。
先ずはイヨが現時点でどれ程の体力を持っているのかを調べる為、ランニングから始めた。駆け足を維持しながら疲れ果てるまでひたすらに走り続けるのである。
リーダーのバルドルが先頭に立ってペースを決め、何が何でもそれに付いて行く。何処かの時点で追走できなくなるだろうから、そうなるまでにどれだけ耐えたかで今後の方針を決めようと。
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