ハーメルン
ナザリックへと消えた英雄のお話
公都:両雄激突

 数多くの冒険者組合でそうなっている様に、公都の冒険者組合の裏手にも修練場がある。一国の首都には不釣り合いとも思えるだだっ広い空き地だ。周囲を木の塀で囲み、それなりに長い歴史の間に数千数万の冒険者たちが鍛錬を行った場所である。
 黒土の地面は幾万もの踏み込みと駆け足訓練で石畳の如く踏み固められていて、歩けば非常にしっかりとした感触が返って来る。

 普段は数多くの冒険者たちで賑わうこの場所だが、今は中央に大きな空間が空いている。先程まで鍛錬に汗を流していた冒険者たちは外縁に退避し、中央の空間で向き合う二名を静観していた。様々なプレートの持ち主たちが入り混じった観衆の中で、【スパエラ】の面々だけが気持ち前の方で腕を組んで観戦する姿勢である。

 二名の内一名、イヨ・シノン。可憐で幼い容姿に似合わず、英雄級の実力を持つ拳士。
 もう一名はガド・スタックシオン。公国内に並ぶ者無き大英雄。老いて尚その名声は揺るがない。
 双方の距離は十メートルほど。二人は未だ構えていない。

 共に小柄な両者だが、放つ戦意は物理的な圧迫感を感じる程に高まっている。イヨの実力を知らない者たちも、老英雄と相対して全く引かない彼の姿勢に感じるものがある様だった。

「やるじゃねぇかよう、イヨ・シノン。見た目に反してお前さん、男だな?」
「こんな見た目ですけど男ですよ。それより何時始めるんです?」

 イヨはご飯を前に待てを連発された子犬の様な表情である。興奮の為か、頬すら赤らめていた。首に下げていたアステリアの聖印は、防御力を高めるマジックアイテムと交換されている。完全な戦闘仕様の装備だ。

 面接時にガド・スタックシオンが告げた言葉に、イヨは一瞬の逡巡も思考もせずこう答えた。
 『そういう分かり易いの、僕大好きです。何処でやるんですか? 僕は何処でも構いませんよ!』と。仮にも公国最高の剣士を相手にして余りに気安い発言だが、少年の顔には達人に対する無限の憧憬と、手合わせ出来るという望外の幸運に対する喜色だけが浮かんでいた。

「おおっと、済まねぇなあ。歳をとると話が長くっていけねぇよう」

 ──理屈はいらねぇ、さあやろうかい。

 声に出さずに呟いて、老人は二刀を抜き放つ。その動作だけで観衆がざわつく。
 公国最強最後のアダマンタイト級冒険者の愛刀、左刀貫き丸と右刀切り裂き丸は、それ単体だけで伝説として語り継がれる名刀として名高い。
 南方より流れ至る刀の構造を解析し、公都最高の鍛冶職が自前の技術と融合させて生み出した不朽の名刀を、帝国の大魔法詠唱者フールーダ・パラダインその人が魔法の武器化した一品。オリハルコンの刀身とアダマンタイトの刃を持ち、切先諸刃造りの刀身はギガントバジリスクの鱗すらも難なく切り裂いたと云う。

 凡そ考えうる限りあらゆるモンスターを切り伏せた名刀を、最高の使い手が振う。なんとも贅沢で、なんとも残酷な組み合わせか。

 これから行われるのが試験であり一種の試合であると知っている観衆ですら、相対する者の死を連想せずにはいられない。
 老人の構えは、これまた基本に忠実。前屈気味かつ半身の身体、切先を相手の正中線にぴたりと据えた二刀。その様はこの上なく堅実でいて美しくすらある。

 老人が積み重ねた鍛錬と経験の歴史が、そのまま垣間見えるかのような構えであった。


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