フールーダ・パラダイン
バハルス帝国に住まう者で、フールーダ・パラダインの名を知らぬ者はいないに違いない。また、彼に尊敬の念を抱かぬ者もいないか、いるにしろ極々少数である事は間違いないだろう。
なぜ彼はそれ程までに高名なのか。それを説明するには、まず魔法の事を説明せねばなるまい。
魔法という技能は、天性の才覚が無ければ使う事も出来ないと一般には思われている。実際、魔法詠唱者たちはその様に言う事が多い。確かに世界との接続と称される行為が出来ねば魔法は使えないが、実の所、費用対効果を完全に無視してひたすらに練習を続ければ、誰でも何時かは魔法が使える様になれる。他の才能を伸ばす時間を潰してしまうので、圧倒的大多数の人間は掛かった時間に見合う利益が得られず損をする位に時間が掛かってしまうが。
魔法には位階と呼ばれる段階、位の分け方があり、基本的には数字が増すほど高位にして高級で強力な魔法が揃っている。勿論、そうした『凄い魔法』ほど習得の難易度は高い。
一番下にあるのが、第0位階魔法である。指先に小さな火を灯す事の出来る魔法等があり、最も低位だけあって習得も──より上の位階の魔法と比べれば、の話ではあるが──容易である。しかしこの位階は奇術や手品と同一視される為、0位階魔法しか使えぬ者は魔法詠唱者とは普通呼ばれない。
次に第一位階魔法。この位階が使える様になって初めて魔法詠唱者を名乗れる領域である。普通の才能を持ち、普通の努力しかしてこなかった者は生涯をこの位階で終わると言われる。信仰系魔法詠唱者ならば〈キュア・ウーンズ/軽傷治癒〉がこの位階で、他には〈フローティングボード/浮遊板〉や香辛料を創造する魔法がある。
その上に第二位階魔法があり、五千人から一万人に一人の才能を持つ者がこの位階に到達できる。一般の人間が努力で到達できる極みとも言われ、到達できない者の方が多数派である。第一位階魔法詠唱者が世間と密な所で雇われるのに対し、この位階に到達した者は貴族や国家に雇われる事も多い。信仰系魔法詠唱者ならば中傷治癒、病気治癒、毒治癒が可能となる。
そして、第三位階魔法。名高き〈ファイヤーボール/火球〉、〈ライトニング/電撃〉、〈フライ/飛行〉がこの位階である。この領域に至れば魔法詠唱者として大成したと見做され、多くの人間から尊敬を受ける立場となれるであろう。数十万人規模の都市ならば複数人いてもおかしくは無く、高位の冒険者などにもそれなりの数がいる。
更に上に第四位階。天凛の才覚を生まれ持った者が極限の努力によってようやく到達し得る領域であり、オリハルコン級やアダマンタイト級の冒険者、若しくは大神殿の長等が行使を可能とする。国単位でもトップクラスであり、一つの国の第四位階魔法詠唱者の数を数えるのには片手で足りる。冒険者ならば冒険者界隈で、宗教者ならば宗教界で殆どの者がその者の名を知る。
第五位階魔法。人間でありながら人間という生物種の壁を超えた領域に立つ者達のみが操る高位魔法。最早天才等と云う言葉では収まらず、英雄の領域として語られる。その者の成した偉業が英雄譚として吟遊詩人に語られても不思議では無く、小国ではこの位階の魔法を行使出来る者が一人もいない、といった事態も珍しくない。この領域に到達した信仰系魔法詠唱者は死した者を復活させる事すら可能とする。同じ業界で名前を知らぬ者は一人としておらず、複数国家間に渡る名声を得ているだろう。
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