公国の支配者たちと【スパエラ】
「ふむ、皇帝陛下とパラダイン殿に……」
──願いが二つという点を含め、予想外ではあるな、と大公は思案する。
【スパエラ】が報酬として望むのは金銭か、そうでなければ公国が所有する宝物の類、上記二つでもないなら『望まない』。この三つのどれかだと大公は思っていた。
三つの内どれであっても問題は一切無い。言った通り望めば望むだけくれてやるつもりだったし、望まないなら無形の恩という事で今後の役に立つ。勿論【スパエラ】の頭脳であるイヨ・シノン以外の三人は王侯貴族の習性を理解しているから、出来れば金銭で測れない貸し借りを残しておきたくは無いだろう。
だから実質の選択肢は二つ。それが事前の予想だった。
そもそも分を弁えない弁えられない欲深の愚か者とは違い、【スパエラ】は基本的に常識人の集まりだと大公は見ている。
ここぞとばかりに大枚をせしめよう等といった発想とは無縁だ。故に報酬は『救国』に対するモノとして巨額になりつつも現実的な範囲で収まるし、双方が収めようとする。そして、額が大きければ大きいほど、それを惜しまず授ける大公の度量も大きく見える。
しかし、皇帝と大魔法詠唱者に対する謁見の要求とは。これ自体はわざわざ大公を間に介さずとも、アダマンタイト級ならば叶い得るものだが。
その『託したいモノ』が相当に厄介なのか。
この少年は、こちらの大陸に漂流する以前からアダマンタイト級の実力を持ち、探検家や格闘家としてテラスティア大陸やレーゼルドーン大陸なる広大な大地を渡り歩いていたとの報告が大公に届いている。
そうした人物の所有物、それも持て余すが故他者に託したいのだと推測される物。何が出て来ても不思議では無く、何が出てくるか見当も付かない。
大公は鬼が出ようが蛇が出ようが驚かないだけの覚悟を済ませると、先を促した。イヨ・シノンは言葉を区切りつつ、考えながらに話す。
「私が故郷にて冒険の末に手に入れた物なのですが、私自身は元より、知己の誰であっても持て余してしまうものなのです。四人で話し合いまして、死蔵するには余りに貴重で有用、かと言って悪意ある者の手に渡れば危険。なので、扱い得る力量と良識を持つお方に託すのが良いのではないかと結論が……」
「それで皇帝陛下とパラダイン殿にと」
「はい」
まあ適任ではある、と大公は思う。周辺に冠たる帝国の頂点と、その帝国を六代に渡って見守ってきた第六位階到達者。
ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは大公が知る限り最高の支配者だ。冷徹かつ合理的な人物で必要とあれば血を流す事を欠片も厭わないが、判断基準の一つとして良識も持ち合わせているし、多少危険でも有用な糧となり得るなら引き受けてくれるだろう。
そして第六位階魔法の使い手であるフールーダ・パラダインは言うまでも無く人類最強の一人であり、尋常な人間の遥か及ばぬ英知も蓄えている。僅かずつ老いてはいるが、それでもこれから先、皇帝が二代か三代は代替わりする程に生き続けるのは間違いない。
『アダマンタイト級冒険者ですら持て余す程貴重で危険で、かつ有用な品物』を預けるのに、彼ら以上の適任を探すのは難しい。国家級の個人を上回るのは超級の国家と言う訳だ。
「託するという事は、その扱いに関しても陛下とパラダイン様にお任せするという事かな?」
「はい。私はこちらに来てから日が浅く、お二方のお人なりを存じませんが、立派なお方々と聞いております。……正しい形で、世の中の役に立てて頂きたいと願っております」
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