チュートリアル・ゴブリンズ・アーミーとリーベ村:決戦編
リーベ村では麦や馬鈴薯の畑作に薬草の栽培、少数ながらも牧畜で生計を立てているのだが、それらの畑や牧草地、放牧地などは村の横手から前方にかけて広がっている。故に村の後方は、ゴフ樹海まである程度の距離を取っている他は田畑も建物は無く、村人が立ち入る事は無い。
例外は樹海に入る事も生業の一つである狩人、そして時折訪れる薬師や冒険者位である。
そんな村の後方に、イヨは柵を背にして立っていた。イヨと柵の距離は十メートルほどか。柵の後ろには槍を突き出した村人たちがおり、更にその後ろに投石を担当する村人がいる。
弓手の者達は物見櫓の上に陣取っている。
高みの利を取り、より多くの敵を接近前に倒すのが目的だ。優先度はまず、第一に柵を破壊できるオーガ。次に指揮官級の個体、三番目に弓手などの遠距離からこちらに被害を与えてくる存在。魔法を扱う個体は目撃されていないが、もしいた場合はそれらも優先攻撃対象となる。
既に予想されていた敵の侵攻時刻を過ぎている。何時敵が姿を見せてもおかしくないので、イヨも村人も緊張していた。
「嬢ちゃ──イヨさん! 危なくなったら下がってくれよ!」
「気持ちは嬉しいし頼りにしてるが、此処は俺たちの村だ! あんたが命を懸けてまで戦う事ぁねぇからな!」
「大丈夫でーす! 皆さんもお気をつけて、怪我の無いようにして下さいね!」
後ろには振り返らずに前方を注視したまま、イヨは手を振って返す。男だと紹介してもらったのに嬢ちゃんと言い掛けたのはどういう事だと思いながら。
村人たちはイヨの助太刀を大歓迎してくれたが、一人で柵の外に出てモンスターと殴り合うと聞くと一斉に引き止めた。助力は嬉しいがそこまですることは無い、死んでしまうと。特にイヨと同じくらいの子供がいるらしい中年世代の声は大きく、見ず知らずの娘を巻き添えになどできないと口々に訴えた。
イヨが拾った小石を握りつぶして砂利にして『これくらい強いんですよー! 心配いりませんから!』とアピールする事で反対意見は一応収まったが──ゲーム内でのスペック上多分出来る筈だと思ってやってみたものの、握力で自然石を砕くなどあまりにも荒唐無稽で、自分でやってて驚いた──イヨの外見のせいか、ちょくちょくこういう声をかけてくるのだ。
外見が幼くて女の子っぽいのは、やはり男にとってはマイナスだと言わざるを得ない。イヨは今更自分の容姿を卑下したりしないし、コンプレックスもあんまり無いが。
「毒尾の亜竜【ポイズンテール・レッサードラゴン】とか倒した事あるんだよー、今はちょっと勝ててないけど、昔は全国優勝したことだってあるんだよー……」
毒尾の亜竜【ポイズンテール・レッサードラゴン】は竜よりは格の低い亜竜に属するモンスターであるが、その実力は決して舐めてかかっていいものではない。竜より知能が劣るという設定の為に魔法を使ってはこないものの、レベルにして六十八の比較的強めな存在である。ユグドラシルの大半を占めていた百レベルプレイヤーにとっては箸にも棒にも掛からぬ強さだが、イヨにとっては本当に強敵だった。
その強敵がドロップした素材とデータクリスタルは今、イヨの防具となっている。
「重装化は要らないかな、ゴブリンとかオーガが相手なんだし。──しかし、敵はまだ来ないのかな」
何時敵が来るやも知れないという緊迫した状況で待たされるのは、精神的にも体力的にも過酷である。心身ともに頑強で勝利に確信を持っているイヨはまだしも、村人たちはこの時間が続けば続くほど消耗が酷くなるだろう。
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