阿礼狂いの友人たち
ジャリ、と砂を踏みしめる音が嫌に大きく響く。
信綱の手には二刀の木刀が握られ、対する相手――博麗の巫女の傍らには陰陽玉が二つ、ふわふわと付き従うように浮いている。
場所は博麗神社の裏側。代々の巫女が鍛錬に使う場所で、二人は向い合っていた。
「……一応、勝敗の確認をしておこう」
「ええ、どうぞ」
「霊力の使用はあり。但し浮遊は跳躍などの常識的な範囲で。主眼がお前の体術だ。できる限り接近戦で」
信綱の口から語られるそれは、巫女の修行内容である。
霧の異変以来、巫女が動くような異変は起こっていないが、信綱が巻き込まれた異変はある。
天狗の里の異変に巻き込まれたという話だ。巻き込まれて何もできず逃げ帰ってくるなど、この男に限ってはあり得まい。
それに僅かな所作から見られる隙の無さに磨きがかかっていた。
ハッキリ言ってしまおう。妖怪退治の手腕ならともかく、純粋な技量という点で巫女が信綱に勝てる絵図が全く描けない。
霊力を扱えるという一点において、巫女は信綱に対して明確な優位を持っている。
しかしそれはあくまで妖怪退治にのみ力を発揮するもの。人間が相手では効果が落ちてしまう。
結界の発動や霊力を用いての身体強化など、全くの無意味ではないのだが、信綱相手にそれは焼け石に水である。
というか身体強化をしなければ、巫女の身体能力は鍛えた女性相応のものでしかない。並大抵の男ならねじ伏せる自信があっても、信綱は無理だ。
そのため、信綱が告げた内容は主に巫女の動きを縛るためのものだ。
あえて自分を追い込むことにより、苦手な分野も克服しようとしている巫女のお願いで、信綱はこの場に立っているという経緯である。
「しかしお前は接近戦が苦手な風には見えなかったが」
「あんたに比べれば劣るわよ」
「俺はお前みたいに札を投げたり摩訶不思議な術は扱えんぞ」
「それでも。できることがあって困ることはないわ」
「……まあ、それには同意しよう」
軽く息を吐き、会話を終わらせる。
次の瞬間には二刀を下げた構えを取り、巫女の攻撃を待ち受ける姿勢になった。
「――来い。そっちの修行だ」
「じゃあ遠慮な……くっ!!」
地面が爆ぜた瞬間、すでに巫女は信綱の懐に潜り込んで顎を狙った拳を放っている。
「――っ!」
「まだまだ!!」
首を動かして避けると、そこから手足に陰陽玉まで加えた猛攻が信綱を襲う。
「――!」
舌打ちをして武器から手を離す。信綱の戦い方は相手の出を潰すやり方であって、それはこういった修行目的にはそぐわない。
なにせ相手に何もさせず、自分は一方的に叩くことを目的とした戦法。この模擬戦でそれをやったら、しばらく口を利いてもらえないのは想像に難くなかった。
素手になった信綱は巫女の拳打と蹴撃を同じく四肢を使って受け流し、弾いていく。
厄介なことに陰陽玉も巫女を援護するようにその硬い身体をぶつけてくるのだが、どうやら自動操縦らしい。それなら上手く誘導すればどうにかなる。
(どんな視野の広さしてんのよ!? 手数で勝ってるのに、押してる感覚が全くない!)
自信のある連撃が防がれていることに、巫女は内心で舌を巻く。やはり剣だけで妖怪と渡り合っているのは伊達ではない。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/10
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク