参上!果実武者!
◆人里・商店通り
「……ったく、照れながらあんなこと言うなよな」
別れ際に天子が発した「ありがとう」の言葉。
それは深く深く俺の心の奥底にしまってある。
この幻想郷で最初に会った時から考えても、天子があんな顔を見せたことなんて一切
なかったからな。
まぁ、あいつと出会ってから数日しか経っていないんだし当然といえば当然なんだけ
れど。
でも、純粋に嬉しかった。
ああいう顔をしてくれるだなんて少しは心を許してくれてるってことだよな。
あの寺子屋に行ったのは結果的に天子的にも俺的にもプラスだっただろう。
子供たちの純真無垢な笑顔に囲まれるのは悪くない。
若干一名、俺をただの食料と考えてる奴もいたけれど……。
それに、慧音の言っていた誰もが手を取りあい笑い合える世界。
微力ながら俺も力になりたいと思った。
そんな世界を、俺は沢芽市で望んでいたから。
世界は違えど、望むものが近いのなら何とか助けてやりたい。
あの寺子屋の子供たちみたいに、分け隔てなく人々が助け合って生きていけるような
世界を実現させるために。
今のところどうやったらいいのかわからないけれど、絶対力になる。
そう決めた。
元の世界に戻る方法が見つからない今、それが俺のこの世界で為したいことかもしれ
ない。
っと、考え込んでたら初めて見る場所だな、ここ。
寺子屋を出て、気付けば人里の商店の集まる通りを歩いていた。
以前天子とともに訪れた場所ではない。
参ったな、どっちに行けば香霖堂なんだ?
方向音痴というわけではないが、本来は自分が存在していないはずの世界にいるの
だ。
誰かの導き無しでは心許ないことこの上ない。
道を聞こうにも、この前の聞き込みの時みたくシカトや因縁をつけられかねないし_
な……。
みんながみんな慧音みたいな考えなら、いいんだけどな。
とにかく、今は歩いた方が時間を無駄にせずに済みそうだし、習うより慣れろ、だ
な。
歩き出そうとした時、ふと目の前の人影に目を奪われる。
竹ぼうきを持ち、黒い服にエプロンをした金髪の少女が歩いている。
その珍妙な姿に一種の好奇心を覚えた。
なんだ、ありゃ?魔法使い、なのか?
大きな三角帽を被っている辺り、そうとしか考えられない。
天子や霖之助、慧音のような人外を見ても驚かなくはなったが、目の前の人物には流
石に驚きを隠せない。
様々な種族がいるとは聞いてはいたが、魔法使いまでいるのか……。
でも、俺の知り合いの魔法使いは大きな指輪をしている程度で、見た目は普通の感じ
だったけどな……。
しばらくその人物を注目しながら歩いていると、ある違和感を覚えた。
普通に歩いていない。
足元がおぼつかず、ふらついている。
体調でも悪いのか……?
そう思った途端、その人物は顔面から地面へと倒れ込んだ。
「…………」
倒れ込んでまったく動きがない。
即座に走り寄って声をかける。
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