新たな仕事
◆香霖堂
「まったく!君の横暴には怒りを通り越して呆れたよ」
「……すまん」
「比那名居天子!君も君だ、なぜ彼を止めなかったんだ!」
「……ごめんなさい」
「はぁ……」
俺と天子に叱責したのちに深い溜息を吐く霖之助。
椅子から静かに立ち上がると、俺たちの前へとゆっくり歩み寄る。
「まぁ、雇い主としての不満はここまでにして、だ。話を聞いたよ、どうやら僕の友人とあの寺子屋を救ってくれたらしいね」
「え、どうして……」
「慧音から聞いたのさ。くれぐれも二人を責めないでくれと念押しまでされてね」
そっか、慧音のやつ気を回してくれたんだな。
まぁ、なんというか助かった。
霖之助の説教は長くなるからな。
「いま、僕の説教は長くなる、と考えただろう」
うぐっ!す、するどい……。
眼鏡をかけなおし、霖之助は続ける。
「まぁ、いいさ。今回の件はこの辺で勘弁してあげよう」
その言葉に俺も天子もほっと胸をなでおろす。
だが、俺はそのまま安堵に浸らずに、腰につけているロックシードと戦極ドライバー
を外し、霖之助へ差し出した。
霖之助は面食らったような顔をして、俺の顔とロックシード、戦極ドライバーへ交互
に視線を移す。
「……なんのつもりだい?」
「俺はまだこれを正式に返してもらったわけでも買い戻したわけでもない。緊急時とはいえ、勝手に持ち出して使ったんだ。きちんと返すよ、これはまだ霖之助の物だからな」
「コウタ……、ホントにいいの?」
天子が残念そうな表情でつぶやくように言う。
「いいんだ。俺は約束したからな、ここで雇ってもらって信用してもらえるようになったら返してもらうって」
霖之助は俺からその二つを受け取ると、レジの上へと静かに置いた。
またしばらくお別れだな……。
インベスが今後も現れると分かっているわけじゃないし、約束は約束だ。
霖之助へ再び預けるのが道理だろう。
天子は少し納得のいっていないような表情をするが、以前とは違い素直に俺の行動を
許してくれた。
霖之助が再び俺たちへ向き直る。
手を後ろで組み、少し笑みを浮かべながら口を開く。
「まぁ、君の意思は汲もう。かなり横暴ではあったが、しっかりと義理は通そうという心意気は僕も嫌いじゃない」
そして一つ咳払い。
今度は一転して真剣な眼差しで霖之助は言葉をつなげる。
「さて、君たち二人には今日まで五日ほど働いてもらった。雇い主として、しっかりと働きに応じた報酬を払わねばね」
そう言って腰巾着から俺の見たことのない紙幣の束を取り出し、枚数を数える。
「一日の基本報酬として、二十。そして商品の破損や本日の迷惑料を差し引いて、ざっとこんなものだね」
『圓壱』と大きく書かれた紙幣の束を俺と天子へと差し出す霖之助。
枚数をざっと見ると俺は五枚、天子は三枚だった。
天子は初日に壺を何個も割ったからその分多く引かれたのだろう。
「……たったこれっぽっちじゃコウタのベルトは買い戻せないわ」
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク