Re.Beyond Darkness 13.『夏物語のプロローグ~ Beginning Rain ~』
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その日は雨が降っていた。
「結城さん、いっしょに帰ろう」
「…うん」
しとしと…と地に落ちる雨つぶたち。夏の夕日を奪い隠す分厚い雲。
雨の日は髪が湿気で纏まりが悪い。洗濯物を外に干せない。湿気と気温でカビが生える。
ウチへと篭りがちになる。食材だってすぐ駄目になる。などなどなど……―――憂鬱。陰鬱。
―――――これじゃ咲いてた花も散っちゃうな、折角キレイだったのに……
庭の花壇に咲いたオレンジ色のペチュニアの花。またの名をツクバネアサガオ。大切に育てていたそれ、その無残に散った未来を思い浮かべて一度溜息。
朝のニュースの大雨注意報。
グラウンドには薄い水の花びらがとろどころに落ちてる。形も不揃い、茶色くちっともキレイじゃない。
代わりに赤い小花を咲かせましょう。と、スイッチを押せばシュバッと空気をきって膨らむ音。それを合図にマリンブルーやレモンイエロー、水玉模様などなど、カラフルなビニール花たちが咲きだし、グラウンドへ飛び出していく―――――大小様々なその花達は雨を弾き、笑顔を振りまき、ウチへと目指し、駆けていく―――。
しとしと雨の中を一人で帰る。
今日の私の沈んだ気持ちと今日のお空はぴったり一緒。重くて深い鉛色。
――其処から落ちる…私を濡らして困らせよう、と透明な妖精の雫…まったく可愛くない。
傘を上手に傾けないと髪も服も濡れてしまう、すぐに洗濯しないと色が落ちたり、染みになったり…おまけに足元に気をつけないと靴下が…脚が濡れて気持ちが悪い。ぱしゃと水たまりに足を突っ込んだ。ほら、思った傍から―――――靴に染みができていく。
「…結城さん、機嫌…よくない?」
「…うん」
立ち止まり足をハンカチで拭う、泥まで靴下に跳ねている。
―――サイアク、
重い空を見上げ悪態をつく―――――ざあざあと私に文句を返すように雨が強くなってきた。
「あの…結城さん、もしかして聞いてない?」
「…うん。」
―――秋人さんに逢えていない。逢えない時間が続いてた。
その切なく重く長い時間は私の喉をつまらせる。胸がとっても痛くてくるしい。愛を求めてクチをパクパクさせるけど、たりなくって…頭の奥で光がスパークするほど息苦しい。まるで冷たいプールに躰を沈め、じっと息をこらえてるみたい。
「あの…結城さん、僕もいるんだけど…?その…ね」
「…うん。」
…そんな切なくてくるしいときは秋人さんとの想い出に浸る。ほんの少しだけ気持ちは暖かくなり重く冷たい寂しさの氷はゆるゆる溶ける……でも、それも僅かな間だけ。すぐにソレまで以上に寂しさの欠片が集まり、凍って膨らんで……産み落とせるなら赤ちゃん5,6人前産んじゃうかもしれない、…"5、6人前"って…コレじゃなんだか鍋料理とか、そんな大皿ものみたい。自分で自分の考えに、ふふっと可笑しく笑っちゃう
「か…かわいい…僕の彼女はなんてかわいいんだ!」
「…は?」
"彼女"聞き捨てならない言葉。…誰だっけ?っと隣の同級生を見る。性別男子。
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