Re.Beyond Darkness 4.『届かなかった想い~First "if"Love~』
15
ササ―――――…ササ――――…
縁側から涼しい風と柔らかな日差しが射し込む部屋。
ただ一人意識のはっきりとしている私は、柔らかい黒髪を撫で梳いた。出会った頃より伸びた髪が指の間をさらさらとすり抜けていく……
それは掴みどころのない心のようで、
つんつんした髪は普段の態度のようで…―――――私はこの男に恋をしている
緑林に遮られて舞い込む風が涼やかに風鈴を鳴らし、畳が浴びる日差しも穏やか。
自然の静寂が私たちの部屋を満たしている…だが、私はどうしても胸の高鳴りを抑えることができなかった。
「ふぅ……」
気持ちを切り替えるようと瞳を閉じ、思考の海へと沈み込む。そうして私は、以前どこかで読んだ本のことを思い出した。
本には確か、「全ての物事には始まる"理由"があり――」とあった。読んだ頃の私はそれに深く同意していた。きっと主のことを考えていたのだろうと思う
しかし、今の私はそれに同意はしない。
愛を綴った詩集に「恋の始まりには"理由"はない、終わりに"理由"があるだけで――」とあったからだ。
つまり、"理由"が見つかれば終わりが始まるという事だから。
うぅん
抱きしめる頭が不意にくずれた。薄く瞳を開け、男の様子を伺う。まだ眠っているようで、安心する。起きた時にどんな顔をすればいいのか、私はまだ持ち合わせがないのだ。
吐息が熱い。
真昼の外も暑いようだが、人の温もりは心地が良い……もう少しの間だけと抱きしめれば、男は気持ちよさそうに胸に顔を埋めた。
大きる胸は私には邪魔だと思っていたが、この男が気にいるならば話は別だ。もっと大きくなってほしい。胸の大きさで悩むなど馬鹿馬鹿しいと思っていたが人は変わるものだ。
「ん………、」
深く息を吸い、抱きしめる。近すぎる男の匂いに勝手に息が熱を帯びる。乱れ、はだけてしまった浴衣では男の感触は遮れない
伝わってくる体温がもっと欲しくて、ねだるように脚を絡ませてしまう。肌の白と浮かぶ汗が艶めかしい。
――なんてはしたない
瞳を閉じながら独りごちる。嫁入り前の娘が床で男を抱きしめ、脚を絡ませるなど、父上が見たら何と言うだろう……
でも、それも今はどうでもいいことだ。
私はもっとこの男に近づきたい。心のキョリは見えはしない。どれだけ傍に居ても届かない、伝わらない想いは確かにあると私は思うから―――
「う…」
気づけば私は頭を強く抱きしめてしまっていた。腕を緩めると、秋人は再び安らかな寝息を立て始める
触れる寝息が私の胸を濕らせる。この部屋の少しばかり暑い、壁に掛けられた温度計は36度を指して動いていない。私の熱は今も高まるばかりなのに。
このまま私の熱は上がり続け、高まり続け、そして死んでしまうのだろうか。私の吐息に混じる熱は既に死に至る温度を越えている気もするのだ。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/10
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク