まだ性の悦びを知りたいだけの子どもだったあの日のぼくたちへ
上がってみると、安普請な造りだが、中は掃除が丁寧に行き届いていた。綺麗にはしているけれど劣化が隠しきれない畳とか、頑固おやじにひっくり返されるために存在するちゃぶ台とか、あまり経済状況は良くないのが窺える。
そんなに広くはないが、ここで亜巳さんが暮らしているのだと思うとそわそわして、どこで寝てるのか気になってキョロキョロと見渡してしまう。
ここでいつも亜巳さんが寝泊まりして、飯を食べ、無防備な姿を晒しているのだと思うと言いようのない興奮が胸を襲ってきた。
こういう生活感漂う一室でだらだらとセックスするのも、それはそれで下半身を熱くさせるものがある。
亜巳さんが留守でなければ、今頃若さ故に憤るおれの息子と、愚かさ故に迸るパッションを詰り、足蹴にし、唾を吐きかけながら、おれの性欲と貞操と憧れを奪い取ってくれた筈なのだが、留守だったんだから仕方ない。
きっと仕事で忙しかったんだろう。そうにちがいない。いないのだからこうなるのも仕方がないのだ。
「ワリィな、こんなもんしか出せなくてよ」
「あ、お構いなく」
御茶請けにせんべいと葬式饅頭が出され、おれは反射的に受け答えした。
おれの横には色白で筋骨隆々の大男がいる。ガクトよりは実戦的な筋肉の付き方がしてると、タンクトップのみの上半身から戦闘力を読み取ってしまう。
この辺は川神院で育った弊害というか、無条件で作動するスカウター的な考えで視覚から判断してしまうので、職業病みたいなものである。
「ちょっと前は豚や舎弟からの美味い貢ぎ物があったんだが、全部食っちまったからなぁ。シケてるが勘弁してくれや」
「いえ、全然! こちらこそ突然おたずねしてしまって申し訳ないです!」
おれは恐縮して肩を縮こまらせながら矢継ぎ早に言った。
豚とか貢ぎ物とか、軽い調子でポンポン出てくる恐ろしいワードにこの男のガラの悪さから、おれはコイツがヤクザか半グレのおっかない人なのかと邪推してビクビクしていた。
おれはどこまで行っても根が小市民なので裏社会の怖い人を見るとどうしても腰が引けてしまうのだ。
本気を出すと次元が崩壊するレベルのチートバッカーズの作中最強候補がそこら辺のチンピラヤクザに勝てないのと一緒で、普段から武神だの核より存在が恐ろしい爺だのビーム撃つ万年ジャージの片言中国人だのと一緒にいても怖いものは怖いのだ。
……つーか、コイツはいったい亜巳さんの何なんだろう。何で亜巳さんが住んでる部屋にいるんだろう。
あれか。亜巳さんがコイツの愛人だったとか、そういうオチか。亜巳さんホステスだし、借金抱えて色々やってるとか、そういうのですか。
「見たとこ学生みてえだが、高校生くらいか?」
「あ、はい」
おれは考えなしに返事をした。チンピラは細い目を炯々とさせておれを見ている。その視線は湿っぽく、じっとりと、絡み付くようで、すこぶる居心地が悪かった。
「いいねえ、学生ライフ! 若くてイキの良いかわいい子がたくさんいるんだろうな」
「若いのが好みなんですか?」
「おお! 特に細くてやわらかそうな子なんて最高だぜ。ま、俺は何でもいけるけどな」
おっかない人に学生だと明かすのもどうかと思ったが、下世話な話になるとついつい舌が弾んでしまうもので、おれは次第にこの怖いお兄さんと打ち解けていった。
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