ハーメルン
真剣で恋について語りなさい
まだ性の悦びを知りたいだけの子どもだったあの日のぼくたちへ

 女の子とエッチなことがしたい三河君と、かっこいい男の子と付き合って女磨きがしたいアタシ。なんだかお似合いじゃない?」

 いや、お似合いじゃない? とか言われても、顔見知り程度でろくに知りもしないのに付き合うとか、ちょっと怖いし。
 そりゃエロいとは思うし可愛いとは思うけど、恋愛は嫌だ。なんかスイーツ(笑)っぽいし、女の嫌なところを煮詰めたような恋人のやりとりを容易に想像できて、セックスのメリットをデメリットが凌駕している気がしなくもない。でもエロい体をしている。かなり可愛い。おれもそろそろ性の悦びを知りたい。どうしよう。
 逡巡するおれに、小笠原さんはさらに押してきた。

「……恋人が嫌なら、セフレでもいいよ。お互い、本当に好きな人ができたら円満に別れられる関係でも。束縛もしないし、体だけの関係でもいいから」

 え、そんなに都合の良い関係でもいいの!?
 おれの心は揺れた。想いが揺れるあまり丹田からこみ上げてくる衝動に生唾を飲んでしまった。
 俯いていたから気取られなかったと思うが、確かにおれの心は傾いていた。
 AVで学んだあんなことやこんなこと、できたらいいなと妄想していた大好きなことをこんなに可愛いコとできるのだ。
 これ断る理由なくないか……?
 性欲が怒涛の勢いで勢力を盛り返し、恋愛を厭う精神を駆逐して回っている最中、次に発した言葉がとどめとなった。

「三河君のしたいこと、なんでもしていいから……」
「……いいよ、付き合っても」

 おれがまだ傷心から立ち直れないふりをしてやけっぱちに答えると、小笠原さんは何度も「ほ、ホント!?」と聞き返してきて、しばらく忘我と立ち尽くしていたかと思うと、「っっっしゃッ!!!!!」と渾身のガッツポーズをした。
 あらゆるスポーツでも見たことのない迫真に満ち満ちた男らしいガッツポーズだった。

 ……小笠原さんは恐らく恋愛に勝った。
そしておれは、性欲に負けたのであることをここに追記しておく。

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