ハーメルン
真剣で恋について語りなさい
M’s



 川神院の前に着くとおどろおどろしい陰鬱とした気が辺りを覆っているのが窺えた。
 まちがいなく姉さんのものである。川神院は実力者が集結しているために遠くからだと個々の気が判別しづらいが、近くに来れば流石にわかる。
 触れているこっちの気が滅入る。武神と呼ばれているくせにメンタルが貧弱にもほどがあるだろう。入りたくねえ。
 気後れして門の前で立ち往生しているとジジイがヒョイと現れた。

「おお、待っておったぞい。千に振られて……いや、彼女ができたと聞いてからご覧の有様じゃ。皆、この気にやられてげんなりしとるわい。修行にならなくて困ってたんじゃ」
「可愛い孫娘が振られて傷心してるってのにドライだな、ジジイ」

 突き放すように邪険に返したが、責められるどころか同情された気配がした。

「まあ、モモの片思いなのは傍から見て明白だったからの。思うところがないわけでもないが、恋愛は個人の自由じゃ。好きになさい。そして大いに悩みなさい。何となくじゃが、お主ら二人は、色事で苦悩すればするほど人間として伸びる気がするからのう」
「PTOのみなさーん。ここに不純異性交遊を推奨する教育者がいまーす。今すぐクビしましょう」
「どうせ禁止にしても隠れてやるだけじゃし、風紀を乱さないなら見逃すのが大人じゃろ。禁止にしたら暴れるのがPTOから生徒になるだけだしのう」

 ジジイは伸びすぎてL字に垂れ下がる眉をさらに落とした。切り落としたい眉だった。

「とりあえず、早いとこ慰めてやってくれんか。正直しんどいんじゃが」
「いいぞ姉さん、もっとジジイを(精神的に)痛めつけろ」
「……育て方をまちがえたかのう」

 やっと気づいたのか……今度おれと姉さんと釈迦堂さんで育成失敗トリオとして売り出そう。
 ぼかぁね、小学生の子供を危険人物視するのはないと思うんですよ。天才なんだから凡人といっしょくたにしないで特別に指導しとけばよかったと思うんですよ、ぼかぁね。
 肩まで落としたジジイを置いておれは姉さんの部屋に向かった。






「姉さん、入るよー?」

 ノックをしても返事がなかったので一声かけてから久しぶりに姉さんの部屋に入った。
 色気のない部屋に色気ムンムンの姉ちゃんが色気のない恰好でこちらに背を向けて横向きに寝ていた。

「姉さーん? おーい」

 呼びかけても反応がない。小さい背中にきゅっとくびれた腰、引き締まって大きく丸い尻にすらりと伸びる、どこにあの恐ろしい筋肉が詰まっているのかわからない瑞々しい足が力なく横たわっている。
 おれは姉さんの尻を見ると叩くより敷かれたくなるが、今は背中を蹴りたい気分だったので爪先で背を小突いた。

「おーい。起きろ、愛しの弟が来たぞー」
「……耳に卵子がかかる」
「あたまだいじょうぶ?」

 姉さんはぼそぼそと何か言っていた。なに言ってんだこいつ。

「童貞線から声が出ていない」
「あたまだいじょうぶ?」
「こんな思いをするなら男に生まれて美人なチャンネー侍らしたかった」
「気持ちは分かるけどせっかく美少女に生まれたんだから、女としての人生謳歌しなよ」

 おれは少年から男になるけど。姉さんはまだぼそぼそ言った。


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