姉、ちゃんとしろよ
「まー、ロリコンを隠す必要がなくなって返ってスッキリしたけどな」
「その頭みたいに?」
「こやつめ。ハハハ」
おれと魔王は打ち解けた。魔王はロリコンであることを明かし、おれはドMであることを素直に話した。
おれと魔王は橋の上で世界が暮れ色に染まるまで語り明かした。
夢の中とはいえ、充実した時間だった。変態の橋に現れる人物は、彼のような些細な子出来事でタガが外れてしまった被害者なのかもしれない。
世界が夜闇に染まるにつれて意識が現実に引っ張られるのを感じ、物寂しい感慨に浸りながら。
そういえば、ハゲの名前、聞きそびれたな……と、おれは心友を思った。
「夢、か。夢の世界の住人にしておくには惜しいヤツだったな……」
うたた寝から醒める。周りを見渡すと自分の部屋だった。どうやら小説を読んでいる途中で寝てしまったようだ。
強烈な印象を残した夢だったが、細部はすでに曖昧な記憶となっていて断片的にしか思い出せない。
だけど、あのハゲとは仲良くなれそうな気がした。あれもまた、カルマを背負いながら、おれとは異なる道を歩んだ者……ロリコンの性犯罪者予備軍として人に後ろ指を指され、愛する幼女には触れようとするたびに防犯ブザーを鳴らされる宿命を義務づけられた男だ。
似たカルマの持ち主として同情せずにいられない。
現実で会ったら警察に通報してやろう。
仰向けで寝転んだ胸元に開いた小説が重ねてあったので、読みかけのページに栞を挟んで畳に置き、携帯で時計を確認すると、ワン子との勉強会の時間になろうとしていた。
起き上がるとあくびをして、のそのそと準備をする。ワン子の学習用に自作した、問題集と要点・解説をまとめたプリントやノートをちゃぶ台に置くと、お茶と甘味を用意して正座しながらワン子の到着を待った。
……待ち惚けているあいだの長閑な静寂に、クビキリギスの鳴き声がわびしく初夏の訪れを告げていた。
学校は部活に励んでいるものは総体に向けて慌ただしく動き、そうでなくても受験勉強が本格化しだし、教師も生徒も騒がしくて煩わしい。
川神院はいつも通り、修行僧の熱気と血気と元気とやる気が充溢していて鬱陶しい。
こうして時折物思いに耽ると、集団行動に向かない自分が恨めしくなる。運動系の部活レベルでは、おれや姉さんのような存在は返って邪魔になるだろうし、部活の指導レベル程度で得られるものも少ないだろう。
思うに、部活の存在意義は、集団が協力して目標に向かい努力することによって得られる、友情やら絆やら連帯感などと呼ばれるイデオロギーで人を縛ることなのだ。みんな頑張っている、みんなもやっている、みんな我慢しているのに……お前はやらないの?
この意識が刷り込まれることによって社会に出て辛い場面に直面しても折れない精神が出来上がる。ハードなスケジュールにもめげないし、上からの無茶ぶりにも周りが同じことをやっているのだから、とやり遂げることができるのだ。
レギュラーを目指すなどして競争を勝ち抜く向上心もここで磨かれる。
上記の意識がおれには著しく欠落していた。
きっと川神院でも、それらを学ぶことができるのだろう。川神院は人間性を磨くステップアップの場として、経歴に箔をつけるなどの理由で修行に来る者も多い。彼らの優秀さは輩出したOBでも保証済みだ。
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