ハーメルン
真剣で恋について語りなさい
限りなく変態に近い普通

 川神学園の制服に袖を通しての感想は、汚れが目立ちそう、だった。
 真っ白の制服は陽光にきらめく無駄に爽やかなデザインをしており、私立っぽい自由な印象を受けた。
 洗面台の鏡に映る自分はそれとなく気障っぽい。眉にも髪型にも田舎臭さ、芋っぽさもない。血の繋がったがり勉時代の女子高生だった実姉は顔立ちはともかく、容姿は垢抜けていなかったのに、これが都会で育った影響なのか。
 そういえば川神育ちのおれは当然として田舎で育った実姉も方言が話せなかったりするが、これはネット世代と教育が影響しているのかも。兄はバリバリ訛っているが、あれは育ちが悪いからだろうし。
 川神では神奈川弁を話している人もあまり見ない。というかおれには神奈川弁と若者言葉の区別がつかない。~べ、はともかく~じゃんとか、「違う」をちげー、「かったるい」
をたりーとかは若い人ならみんな使っている印象があった。
 人口が多いところの影響力は怖い。

 おれが身なりを整えてリビングにいくと、既に制服を着こんだ姉さんがだらしない恰好で寝そべりながらテレビのニュースを観ていた。

「ずいぶん着替えるの遅かったな。なにしてたんだ?」
「鏡に映った自分に見惚れてた」
「うわ、ナルシストだなこいつー」

 と言葉では蔑みつつも姉さんは満更でもなさそうだった。制服姿のおれを気に入ったのだろう。
 昨夜、姉さんとワン子がおれのマンションに遊びに来て泊まっていった。一夜にして冷蔵庫を空にしていった。夕食後、おれは調味料だけが残された冷蔵庫を前に立ち尽くした。
 姉さんがおれの一人暮らしに反対しなかった理由は、予想がついていたが、川神院とちがって人の目を気にすることなくおれと二人きりになれるからだった。小うるさいジジイとルーさんの目が届かない空間がよほどお気に召したらしく、姉さんはおれが越してからほぼ毎日のように遊びにきていた。
 ファミリーの連中も冷やかしにちょくちょく来ていたのだが、姉さんの頻度は抜けている。おまけに姉さんに随伴してワン子までやってくるため、先月の我が家のエンゲル係数は一人暮らしとは思えない高さを記録した。
 この二人は細いわりに健啖家だから食べる量が半端じゃないのである。そして出さなきゃいいのにおれは喜んで食べる顔が見たくて料理を奮発してしまうのであった。
 いい加減自重しなきゃならないか。

「しかし良い部屋借りたよな、高校生の身分で2LDKのマンションとか、お姉さん憧れちゃうなー。特に壁が厚くて多少は大声あげても平気そうなのがいい」
「でもここ事故物件だよ」
「うわわ、朝っぱらからそういう冗談やめろよー!」

 ジジイの紹介で引っ越した今の住居は、川神院にほど近く和洋五畳ほどの居室と八畳のリビングがある賃貸マンションだった。立地と設備のわりに格安だったので、おれは事故物件だろうと勝手に思っている。さすがにジジイもそんな物件を紹介しないだろうが、こう言っておけば姉さんの足がこっちを向く頻度が低くなるかもしれないから。
 実家がそこそこ裕福なので仕送りも潤沢なのに加えてキャップの伝手で奇妙なバイトもしているため、家賃は気にしていなかったが助かった。

「あいつらも家出てる時間だろ。ほら、行くぞ」

 事故物件の話にビビったのか、おれの腕をひいてそそくさと家を出る。オートロックって便利。実家、川神院と和風の家で育ったおれは引っ越した時、ちょっとばかしカルチャーショックを受けた。

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