祈願、氷息
一誠がここに来るまでの間に起こった出来事をリアスに報告する。リアスから休養を言い渡されていた一誠は、することもなく児童公園で時間を潰していたところ、ある少女と偶然出会う。その少女の名前はアーシア。
シンにとっては初めて聞く名前であった。小声で木場にアーシアという少女について知っているか尋ねた所、木場自身詳細は知らないものの先日、一誠がはぐれ悪魔祓いに襲われた場所にいたシスターであり、その前から一誠との面識があったという。はぐれ悪魔祓いと共に行動をしていたということは必然的にそのシスターも堕天使側の人間である。
一誠は更に語る。その少女と共に今日一日共に行動していたことを。そしてその少女は一誠と同じく『神器』を持ち、その力で先日受けた傷を治癒してくれたことを。そして最後に、あのレイナーレという堕天使の前に成す術なく敗れ、アーシアのレイナーレへの懇願によって救われた自分のことを血を吐くように語った。
一誠は真っ直ぐにリアスを見つめ、レイナーレの居る教会へアーシアを助けに行くことを提案する。が、リアスは断固とした態度でその提案を却下した。
しかし、一誠の方もそのまま諦めるはずも無くリアスに食い下がる。リアスは返答の代わりに一誠の頬を叩いた。乾いた音が静まった部室によく響く。だが、それでも一誠は怯まない。
一誠は堕天使が去り際に言った『儀式』という言葉に胸騒ぎを覚え、アーシアの命が危機に瀕するのではないかと思い一人でも教会に乗り込むと言い放つが、リアスは冷静な声で一誠の無謀さを諭し、一人で行けば確実に死ぬだけだと言う。リアスの話し方は最初の方こそ冷静ではあるが、徐々に言葉に熱を帯びていく。
一誠はその言葉を聞き、迷いなく言う。自分を眷属から外してくださいと。
「そんなことができるはずないでしょう! あなたはどうしてわかってくれないの!」
リアスの熱が一気に爆発する。シンがついこの間見た静かな怒りとは正反対の爆炎のような怒り。そのような怒りの感情を真正面から受けても一誠の意志が揺らぐ気配はない。
その表情でシンはもう既に一誠の答えは決まっているということを悟る。たとえ最後の命の一片を使い切ってでも事を成す、そんなすでに決定した意志を変えるというのは至難の業である。一誠がリアスに対し、ことの顛末を言ったのはある意味自分のことを切り捨てて貰う為に言ったのかもしれない。
(頑固な二人だ)
意見を曲げずリアスと睨み合う一誠の姿を見て、シンはそう思う。シンの考えとしてはリアスの言うことは真っ当であり、この場で間違っているとすれば一誠の方であるのは分かっている。だが、不思議と一誠に対して不快感を覚えなかった。
一誠は断固とした意志で、自分はアーシアという少女と友達になったこと、そしてそれ故に彼女を見捨てることが出来ないと言い放つ。リアスは、臆せずにそのようなことを言う一誠を褒める一方で、悪魔と堕天使の関係は一誠の想像以上に薄氷のように脆く、危うい関係であることを説く。
「敵を消し飛ばすのがグレモリー眷属じゃなかったんですか?」
返す一誠の言葉にリアスは閉口し、反論の代わりに一誠を睨みつけるが、一誠も怯まずにその碧眼から放たれる射抜くような視線を真っ向から受け止めた。
堕天使側に居るアーシアを悪魔が救う義理など無いと、あくまで悪魔側のスタンスを崩さないリアス、その考えを拒絶し自らの意思を曲げない一誠。話は完全に平行線を辿る状況となった。
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