ハーメルン
聖闘士星矢~ANOTHER DIMENSION 海龍戦記~改訂版
第15話 激闘サンクチュアリ! 立ち向かえ聖闘士(中編)の巻
人が地を這う蟻の生死に何の関心も抱かぬ様に。旧き神族であるギガスにとって人間とはその程度の存在である。
リュアクスに関して言えば、他のギガスに比べても特にその考えが強い。
「くくくっ。そうだ、その表情だ、その嘆きだ」
だから、であろうか。
オリンポスの神々の加護を受けていたとは言え、かつて自分達を冥府へと封じたのはその取るに足らぬとしていた人間の戦士。
「もっと見せろ、もっと聞かせろ。絶望と恐怖に満ちたその情念こそがオレの渇きを満たすのだ!」
その記憶が、人間への憎しみが、憎悪の記憶がリュアクスの嗜虐性を加速度的に高めていた。
無関心が反転し、歪みの果てに辿り着いた思考――ヒトの存在を無価値と断じ、その全否定へと。
「グフフフッ。辛かろう、苦しかろう? さあ、このまま死にたくなければ抗ってみせろ」
生かさず、殺さず。全てはこの時の為に。倒れた者達の中から意識を保っている者を見付けるとリュアクスは嗤った。
「抗えぬのならば死ぬのみよ。恨むなら己の弱さを恨むのだな。弱いとは――」
目が合ったのは幼い少年。彼の頭部を鷲掴みにすると、周囲に見せ付ける様に掴み上げジワリジワリと力を込める。
「それだけで罪よ。そうらどうした? ほんの少し力を入れただけだぞ?」
「あ、あが、ぎ……ゃぁあああ……」
ある者は目を閉じ、ある者は耳を塞ぎ。
無力な己を呪いながら、目の前の暴力を見ている誰もが少年の死を確信し、訪れる惨状を幻視していた。
反応の無くなった少年に向かって「つまらん」と呟き、リュアクスは手にした少年を放り投げる。
あのまま地面に落ちれば死ぬ。それが分っていても動ける者はいない。
だが――
何時まで経っても少年の身体が地に落ちる音が、その気配が無い。
誰かが恐る恐る少年の行方を捜した。
そして、見た。
宙に浮かぶ少年の姿を。意識は失っている。だが、上下する胸元が少年の生を示していた。
「弱さは罪、か」
それは、若い男の声だった。
少年の背後から眩い輝きが溢れ出し、それを見ていた者が瞬きする間に輝きは人の形となっていた。
砕けた石畳の上を、音も無く歩む男。
黄金に輝く聖衣を身に纏い、薄く笑いを浮かべたその表情、その雰囲気は不敵にして傲岸不遜。
「同感だ。良い事を言うな。そう、弱い事はそれだけで罪だ」
現れた男の声に、リュアクスは己の意識を瞬時に戦いのソレへと切り替えた。
気配を感じさせる事無く現れた男を無意識の内に警戒したのだ。
「だがな? それをそう断罪する権利が――資格がお前にあるのか? そんなにお前は強いのか? オレにはな、とてもそうは見えないんだよ」
「……その聖衣、貴様黄金聖闘士か。何者だ?」
「
蟹座
(
キャンサー
)
だ。キャンサーの黄金聖闘士デスマスク。ああ、名乗らんでいいぞ? オレに滅ぼされる雑魚の名前なんざ一々覚えていられんのでな」
「雑魚……だと? このオレが、神であるこのリュアクスを貴様の様な虫けらが“弱い”と――ほざくかぁあっ!!」
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