ハーメルン
聖闘士星矢~ANOTHER DIMENSION 海龍戦記~改訂版
第18話 望むはただ千年の決着を!の巻

 洞内を照らしていた淡い光が失われ、しばらく続いた闇が、やがて赤みを帯び始める。
 それは赤黒く煮え滾る熔岩の色。洞窟内がその炎によって照らされ、染められた色だ。
 地下深く、火口をぐるりと囲むように螺旋を描いた――通路と呼ぶのも躊躇われるような道を抜ける。
 行く手を阻むのは、百の蛇の頭と何本もの手足を持った魔獣、そうとしか形容のできない意匠を施された巨大な青銅の扉。
 そこから先は彼らの王――ギガスの神の意志が支配する聖域。



 現世と神域、その狭間である扉の前で激しくぶつかり合う二つの小宇宙。
 人の目では捉えきれない速度で交差する二つの輝き。
 輝きは幾重にも重なり合った光の軌跡となる。
 軌跡の中で踊るのは二つの人影。

「……これで三度目。私の“スティグマ”が君を捉えた回数だ」

 呟かれる声の主は神将“迅雷の”トアス。彼は穏やかさを秘めた眼差しのまま、落ち着いた様子で続ける。

「これで分ったかな? 君は確かに速い、まさしく神速だ。それでも……私の方が速い。私の二つ名を教えよう、“迅雷”だ」

 トアスの右手が掻き消え、彼と対峙していた影がその場から姿を消した。
 洞内にゴッという音が響き、天井が崩れ落ちる。
 大小無数、大量の岩盤によってうず高く積み上げられたその場所に、遅れて一つの岩が突き刺さった。長方形のそれはまるで墓標であった。

「確かに速い――だが、軽い。その程度の重さじゃあ……」

 声と共に、墓標の下から黄金の輝きが溢れ出す。溢れ出た光が集束し、洞内を貫く柱となって起立した。
 光に押し上げられる様にして岩が、土砂が舞い上がる。

「――俺の命には届かない」

 光の中から現れたのは海斗。その身に纏うエクレウスの聖衣は白ではなく、今は黄金の輝きを放っている。

「ようやく実感できた、これがムウの仕込みか。新生したこの聖衣は、俺の小宇宙の高まりに応じて強度を遥かに高めている。お前の拳――“スティグマ”だったか? 確かに速く鋭い一撃だった。以前のままの聖衣では、いや、新生した聖衣であっても“黄金化(この状態)”でなければ一撃ですら耐え切れなかった。俺の意思が、小宇宙の炎が消えない限り、今のこの聖衣を貫く事は出来ん」

 海斗の言葉を証明するように、黄金の輝きを放つ聖衣には胸部と左肩、右脚に破損こそ有ったが、トアスによって与えられた傷は無い。

「そして――」

 海斗が僅かに腰を落とし、左右へと広げた両手がゆっくりとエクレウスの星座の軌跡を描く。
 アルファからベータ、ガンマ、そしてイオタ。四つの星からなる縦に長い台形。それがエクレウスの軌跡。
 それを見て、トアスの表情が変化した。
 一瞬であったが、そこに浮かんだのは驚愕と歓喜。

「そして、お前の速度にも慣れてきた。“スティグマ”の正体は拳大の無数の拳撃の中に紛れ込んだ針の様なか細い一撃だ。小宇宙を針のように細く鋭く集束したもの。似た様な技を使う聖闘士の話を聞いた事がある。確かに速いが――次は捉える」

 高まり続ける海斗の小宇宙は天駆けるエクレウスの姿を浮かび上がらせる。

「……君の容姿と纏うその聖衣。わたしの記憶とは異なっていたのでね、こうして目の当たりにするまで半信半疑だった。だが、その構え、その眼差し、その小宇宙が生み出したオーラをわたしは――知っている。やはり、君は“そう”だったのだな。これから君が繰り出す技を当てて見せよう。その体勢から放たれる技は“エクレウス”の必殺拳、小宇宙の生み出す流星“エンドセンテンス”だ!」

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