ハーメルン
聖闘士星矢~ANOTHER DIMENSION 海龍戦記~改訂版
第8話 一時の休息の巻
三途の川。
東洋の、仏教的概念としては、現世と彼岸の境目にある人が死んで七日目に渡るとされる川だ。
善人はそこに架けられた橋を渡り、軽い罪を負ったものは浅瀬を、重罪人は深みを渡るとされている。
しかし、長い年月の中で“橋を渡る”という考え方が消え、料金を支払い渡し船によって渡河するといった考え方へと変化する。
西洋、ギリシア神話にも類似の概念があり、ここでいう三途の川はステュクス河やアケローン河となる。そこにも渡し守がおり料金を支払って渡河するのだ。
古くから川というものは境界として見なされる事が多く、こういった考え方は洋の東西を問わず共通する部分が多くあった。
「――以上、タメになる雑学講座でした、っと」
冥府と河。この二つが揃っている時点で“あるだろうな”とは考えていた。
だからこそ、海斗は目の前の河に一隻の小舟が浮かべられている事にも、その小舟の側に人影がある事にも、それ程驚く事はなかった。それだけであるならば。
「いよ~ぅ、少年。
お前さんも、あそこ
(
血の瀑布
)
まで行きたいんだろう?」
海斗のイメージしていた三途の川の渡し守は白い襤褸を見に纏い、寡黙な年老いた老人だった。
ギリシア神話で言うところのカロンのイメージだ。
目の前の人物は海斗のイメージ通りの白い髪に白い髭。それはいい。
しかし、白のシルクハットに白のタキシードを着こなした老人、というのは違う。正誤を問うものではないのだろうが、これは誤だ。日本人ではあるが、これには誤と言いたい。
「こいつならあっという間だ。どうよ、乗ってくかい? 欲張りなタヌキさんの選んだ泥船よりは安全さ。お~っと、そんなコワい顔をしなさんな、コッチは見ての通りのヨボヨボの爺ィだよ?」
しかも、それが喧しいぐらいによく喋り、妙に馴れ馴れしい。
「……いや、別に――」
「ああ、手持ちがないのか。大丈夫、だいじょ~ぶ。お代の六文銭は結構よ。服を差し出せ、なんて事も言わないから。ちょっくらこのサビシイ爺ィの話し相手になってくれりゃあそれでいいんだ。何せこの二百数十年間、こ~んな薄ぐら~いトコに引き籠ってたせいで
うえ
(
地上
)
の話に飢えちゃってるワケ。少年もここに来るまでに見ただろう? 白いもやっとした影をさ。ありゃあ死と共に自我を失い自分のカタチすら留められなくなっちまった奴等の魂なのさ。人型を保っている奴等も似たようなもんでな、話し相手になんかなりゃしない。あーとかうーとかそんなもんよ?」
「そういう事か」
老人の言葉で海斗はここに来るまでに見た光景を思い出す。
何をするでもなく、ただ呻きを上げ続けるマネキンのような人型と靄の正体はそれかと。
「ほら、乗った乗った! 一名様ごあんない~っと」
老人は海斗の手を取ると勢いよく小舟へと乗り込んだ。
海斗の意志などお構いなしであった。
「それにしても、そのボロボロの聖衣は酷いねぇ。一体何と戦ったのやら。上ではもう聖戦が始まっているのかい? だったら、ここいら一体も賑やかになるなァ!」
明らかに怪しく、胡散臭い相手である。
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